TrailRunner

【Interview】甲斐大貴・髙村貴子 オール コンディションズレーシングデパートメント加入とナイキ ACGプロダクト

 

トレイルランニングシーンに本格参入を果たしたナイキ ACGのエリートトレイルランナーが集う「オール コンディションズレーシングデパートメント」に新たに加わった甲斐大貴選手と髙村貴子選手。日本のトップトレイルランナーとして活躍中の二人が感じたチームとギアについて。そして二人の未来像について伺いました。

 

ーー トレイルランニングを始めたきっかけを教えてください。

甲斐大貴(以下、甲斐) 僕はもともとロードランニングで、マラソンを中心にやっていました。小・中学校から走り始めて陸上競技を続け、大学、実業団まで行きました。ただ、短い距離が苦手で、長い距離が得意だと思っていたので、100kmマラソンに挑戦したくて実業団を辞め、個人で活動するようになりました。そのタイミングがちょうどコロナ禍で、狙っていた100kmレースが開催されなかったんです。一方でトレイルランニングのレースは開催されていたんです。正直、山は苦手でしたが、そこで苦手を乗り越えたら、100kmマラソンにもプラスになると思って参加しました。練習をしていくうちに、苦手すぎて負けるのが悔しくなって。そこから取り組んだ結果、その年のスカイランニングの日本選手権で優勝でき、日本代表になりました。それをきっかけに、山の世界でプロとしてやっていくことにしました。

髙村貴子(以下、髙村) 私は北海道の大学で行き、スキー部に入ったのがきっかけです。スキーのトレーニングとして山を走るように言われ、実際に走ってみたら、今まで感じたことのない爽快感があって魅力に感じました。それからスキーよりも山を走ることにハマっていきました。2017年のスカイランニングのワールドシリーズで「もしかしたら勝てるかもしれない」と思えた経験があって、そこから「世界一になりたい」と強く思うようになりました。今もそこを目指しています。

 

All Conditions Racing Department

 

ーー ナイキ ACGのオール コンディションズレーシングデパートメントを選んだ理由を教えてください。

甲斐 僕はアメリカが好きなんです。国としての雰囲気や文化が好きで、ロードではボストンマラソンなども走りましたし、アメリカのトレイルレースに出たとき、文化もコースもすごく好きになりました。コースが走れるタイプで、ロード出身の自分には合っていたんです。このチームは拠点がアメリカで、僕自身も今後はアメリカを中心に活動したい。方向性が合致していると思って参加させていただきました。

髙村 私は、トレイルシューズの「ウルトラフライ」を初めて見たときに「このシューズで走ってみたい」と強く思ったのがきっかけです。ナイキがこれからどんな商品を作っていくのかに大きな期待があり、とてもワクワクしました。ぜひそのプロセスに関わってみたいという気持ちが強かったです。

 

ーー 加入してみた感想を教えてください。

甲斐 ナイキという会社の規模が本当に大きいと感じました。アメリカで実施されたACGのキャンプに行ったときも、たくさんのアスリートがいて、今後いろいろな商品開発も進んでいくんだろうなと。原宿の店舗もACGが大きく展開されていて、見たときに「すごいところに入ったな」と思いました。

髙村 私も同じで、キャンプの規模感に驚きました。ACGアスリートのためにこれだけの環境を用意してくださり、フィジカルテストや商品開発へのフィードバックの機会もあり、選手の声をすごく聞いてくれると感じました。アスリートを大切にしてくれていると実感できた、今までにない経験でした。

 

ーー ナイキがACGを刷新してトレイルランニングに本格的に参入することが、業界に与える影響をどう思いますか?

甲斐 UTMBモンブランの会場で打ち出したときの周りの反応がすごかった。ナイキは多くの人が知っていて、若い世代にも広く届くブランドです。日本のトレイルランニングはどちらかというと年齢層が高い印象もあるので、若い世代がトレイルに入ってくる入り口として、影響は大きいと思います。

髙村 昨年ヨーロッパでゴールデントレイルシリーズを回っていた頃から、ナイキの選手が増えている印象がありました。これまで日本ではトレイルランニングシューズの展開が限られていて、ナイキのトレイルシューズに触れる機会もほとんどありませんでした。そのぶん動きが見えにくい部分もありましたが、実際にACGに加入してさまざまな商品を見ると、どれも機能性が高く、今後さらに楽しみな商品が増えていくと感じています。ナイキがトレイルシューズを展開することで、より多くの人が触れやすくなり、影響は大きいと思います。

 

 

Gear

ーー シューズはどのように使い分けていますか?

甲斐 トレイルは基本、すべて「ウルトラフライ」で走っています。僕は山の練習をすごく多くするというより、レースが練習の一部という感覚です。ロードは「ボメロ」や「ペガサス」を履きます。ロードレースでは「アルファフライ 3」を履いています。

髙村 私は以前、トレイルシューズしか履かないくらいロードシューズの知識がなかったんです(笑)。同じシューズでロードもトレイルも走って怪我をしたことがありました。最近はいろいろ試して、「ペガサス」と「ペガサストレイル」は近い感覚で走れたり、「ボメロ」は厚みがあるけど走りの感触が良かったり。いろんなシューズを使うことで練習の幅が広がったと感じています。

 

ーー 今使っているウェアやシューズで、気に入っている機能があれば教えてください。

甲斐 レースで着ている「ナイキ ラディカル エアフロー」は穴あき構造で、長袖なのにすごく涼しいです。速いペースで走ると風を感じて涼しいのに、登りなどでゆっくり動くと意外と保温される。「ウェスタンステイツ」はスタート時が5度くらいで、日中40度近くになるので、温度差に対応できるのが良いです。「ウルトラフライ」は、ラグが小さめで走りやすいのに、意外と岩場でも噛んでくれます。ロード出身の自分には、走れるコースでスピードを出しやすいのが合っています。

 

 

髙村 私も寒暖差のあるレースで「ナイキ ラディカル エアフロー」を着たとき、思ったより暑くなりすぎず、下りでも冷えすぎませんでした。いつもは冷えでお腹を壊しやすいのですが、それもなく、機能性が高いと思いました。ショーツは軽くて擦れにくく、邪魔にならないのが良いです。シューズは、走れるコースは「ウルトラフライ」、テクニカルなコースは「ペガサス トレイル」が好きです。下りの感覚が悪いときでも、「ペガサス トレイル」を履くと戻るくらい走りやすい。初心者にもすすめたい一足です。

 

「Nike Radical AirFlow」

 

 

ーー レースの距離や路面によって履き分ける基準はありますか?

甲斐 距離よりもコースのサーフェスで決めます。ラグが深いとテクニカルな岩場や砂利で安定しますが、ロード区間ではブレーキになることもある。走れるコースが多いアメリカなら「ウルトラフライ」一択でもいい。ヨーロッパの岩が多い場所など、危険度が高い路面では使い分けたいです。

髙村 私も距離よりサーフェスです。カーボンプレート入りだと、テクニカルな下りでタイミングがずれることがあるので、テクニカルなら「ペガサス トレイル」。走れるレースなら「ウルトラフライ」。上りとフラットはウルトラフライが抜群だと思います。

 

 

ーー ACGのギア全体に対して、求めていることはありますか?

甲斐 求めるというより、もう十分体現されていると思います。機能面も満たしつつ、普段着としても成立する。荷物を増やしたくないときに、アウトドアで使えて街でも着られるのがいいです。

髙村 私も、欲しいところにポケットがあるなど、使いやすさが最初から設計されていると感じます。選手の声を聞いて作っているのが伝わります。

 

ーー こんなトレイルシューズが欲しい、というリクエストはありますか?

甲斐 わがままですが、アルファフライくらい反発があって、さらにトレイルでも安定するシューズが欲しいです。

髙村 私は「ペガサス トレイル」が大好きなので、そのレーシング版があると嬉しいです。

 

二人が実際に使用している「Nike ACG Ultrafly」

 

 

 

Target

ーー 今シーズンのターゲットレースや目標を教えてください。

髙村 ゴールデントレイルシリーズを回っています。今年は最終戦がアジアなので、そこで勝ちたいです。11月に「アジア太平洋選手権」もあるので、そこで結果を出したいです。

甲斐 僕は長い距離で、ロードの走力を活かせる「走れるトレイル」が得意なので、そういうレースを中心に出たいです。「ウェスタンステイツ」や、11月の「JFK 50マイル」など、アメリカのレースを中心に。UTMB系のメジャーレースも予定しています。結果として、半分くらいアメリカにいるかもしれません。

 

ーー 今、力を注いでいる取り組みを教えてください。

髙村 最近、新しいコーチに見てもらい始めました。今までと違う視点のメニューなので、それを忠実にやって、レースでどこまで成果が出るか見ていきたいです。

甲斐 トレイルの比重が増えて、ロードの走力が落ちてきたのを感じています。海外のトップ選手はロードも速い。ロードの土台があって、そこに山の力が乗っているので、僕ももう一度ロードや短い距離の走力を戻しつつ、長い距離につなげたいです。

 

 

ーー レースは長くてタフですが、メンタル面で気をつけていることは?

甲斐 僕は頭にカメラを付けて走っていて、起きたことや現状を話しながら走るんです。レースは一人だけど、視聴者に語りかけている感覚があって、それがプラスに働いていると言われました。きついときに口に出して状況を整理すると、落ち着いたりリセットできたりする。無意識にやっていたことが、実は有効だったと知って驚きました。

髙村 きついときに「きつくない」と口に出して言うと、だんだん落ち着いてくる。心理師の先生からは「どんなに辛くても笑え」と言われました。笑うことが脳に良い刺激になってメンタルにも良い影響があるそうで、次のレースでは意識してみたいです。

 

ーー 現在の目標を教えてください。

甲斐 個人的には、2025年の「ウェスタンステイツ」で10位に入れましたが、目標は優勝です。アジア人でまだ誰も勝っていないので、ナイキ ACGを背負ってアジア人初の優勝を取りに行きたいです。

髙村 私は世界一になることが一番の目標です。トレイル界で世界一を取るなら世界選手権だと思っていて、2年後の世界選手権で結果を残したいです。それと今回アメリカで実施されたACGのアスリートキャンプで、いろんな角度から研究することが面白いと感じました。将来、そういう領域にも関われたら楽しそうだなと思い、新しい目標もできました。

ーー これからトレイルを始めたい方へのおすすめをお願いします。

甲斐 最初は山が難しいと感じる人が多いと思います。ロードより時間がかかるし、装備も必要か分からないし、不安もある。もし可能なら経験者についていくのがいいです。それと、いきなりトレイルランから入るより、まずは登山やハイキングで山に慣れるところから始めるのも良いと思います。景色や空気など、山を好きになるところから入ると続けやすいです。

髙村 トレイルランを始めたいなら、短い距離のレースに出てしまうのも一つだと思います。レースはマーキングがあり、スイーパーもいるなど安全体制が整っています。装備を整えて短い距離から出て、山に慣れて少しずつ距離を伸ばす。その後に自分で計画して山に入るのが取り組みやすいと思います。

ーー ありがとうございました。

 

 

Profile

 

甲斐大貴(くれいじーかろ)
オール コンディションズレーシングデパートメント所属
一般社団法人ランニングキャンパス代表理事
ランニングチーム「JOHHOKU CABALLO」代表
フルマラソン自己ベスト:2時間15分17秒(2022年別府大分毎日マラソン)

1994年8月5日生まれ。千葉県出身。小学校4年生のとき、持久走大会で「速くなりたい」という純粋な思いから走り始める。中学では陸上部に所属し県大会入賞、高校は千葉の名門・柏日体高校へ進学。3年時に駅伝優勝、「全国高校駅伝」出場を果たす。順天堂大学へ進学し箱根駅伝を目指すも、3年次はエントリー後に当日変更、4年時は坐骨神経痛によりメンバーから外れる挫折を経験。しかし卒業前の「勝田全国マラソン」で初マラソン優勝、東京マラソンでは2時間18分17秒で準エリート3位と結果を残す。卒業後は実業団で3年間活動。国内外のフルマラソンで優勝、駅伝でも活躍。2020年、ウルトラマラソンで世界を目指すため実業団を退部し個人活動へ転向。しかし直後にコロナ禍で大会が次々と中止に。その中でYouTubeチャンネル「くれいじーかろ」として発信を開始。2021年に山岳競技と出会い、「スカイランニング日本選手権」で優勝。日本代表入りをきっかけにプロアスリートとして本格始動。以降、国内外のトレイルレースで活躍。2025年、世界最古の100マイルレース「Western States Endurance Run」で10位入賞。2026年よりNIKE ACG Athleteとして活動。ロード、ウルトラ、スカイ、トレイルとあらゆるフィールドに挑戦し続けるオール コンディションアスリート。

主な戦歴
2023年トレイルランニング世界選手権出場
IAU50km 世界選手権出場
スカイランニングアジア選手権優勝
富士五湖ウルトラマラソン 3lakes優勝
Mt.FUJI KAI69k 2位
2024年アジア太平洋トレイルランニング選手権ロング2位
Izu Trail Journey 3位
2025年Tarawera Ultra Trail by UTMB T102 2位
Western States Endurance Run 10位
Chiang Mai Thailand by UTMB INTHANON 20 1位

 

 

 

髙村貴子
オール コンディションズレーシングデパートメント所属
1993年1月22日生まれ、石川県出身。大学時代にトレイルランニングと出会い、その過酷さと爽快感に魅せられて競技を開始。2016年、日本最高峰レース「日本山岳耐久レース(ハセツネCUP)」で初優勝し、2023年まで大会記録更新を含む5連覇を達成。2024年には「第1回アジアパシフィック選手権」で優勝し、2025年開幕戦「ハセツネ30K」でも大会新記録で頂点に立つなど、現在女子トレイルランニング界日本最強を誇る。アスリートとしてだけではなく、医師としての知見や分析なども強みとし、さらなる活躍が期待される。2032年トレランが五輪正式種目になることを信じ、五輪でのメダル獲得を目指すプロトレイルランナー。

主な経歴
日本山岳耐久レース(ハセツネCUP) ※2016年より5連覇
2023年スカイランニングアジア選手権2位
2023年スカイランニング日本選手権(SKY)優勝 ※スカイランニング世界選手権選考レース
2024年霧島・えびの高原エクストリームトレイル(ショート)優勝 ※トレイル世界選手権選考レース
2024年GOLDEN TRAIL WORLD SERIES2024 8レース終了後総合ランキング17位
※GOLDEN TRAIL GRAND FINAL出場権利獲得
2024年アジア太平洋トレイルランニング選手権(ショート)優勝
2024年Chiang Mai Thailand by UTMB World Series Major 3位
2025年日本山岳耐久レース(ハセツネ30K)優勝 ※世界選手権選考レース/大会記録更新
2025年上田スカイレース優勝
2025年GOLDEN TRAIL WORLD SERIES2025 第1戦4位/第2戦6位/第3戦12位

 

 

■ACG:https://www.nike.com/jp/acg