
「信越五岳トレイルランニングレース 2022」100マイルで2位入賞。2024年の「TRANS JAPAN ALPS RACE(TJAR)」では最年少出場ながら、中盤までトップ争いを演じ注目を集めた竹村直太選手。100マイルを主戦場としながらも、自身の限界を超える超長距離レースへの挑戦を見据えています。彼の原点にある思い、そして自然の厳しさと向き合う冒険について伺いました。
トレイルランニングの面白さは、山の険しさにある

ーー中学から大学まで陸上部だったそうですが、練習以外で山にも登っていたのですか?
竹村 初めての登山は高校生の時、家族で屋久島に行きました。その後に富士山に登って、という一般的なパターンです(笑)。大学は金沢大学で、白山が近かったので少し走ったり登ったりした程度です。
ーー本格的にトレイルランニングを始めたのは?
竹村 社会人2年目からですね。今は石井スポーツに勤めていて、僕の活動を理解し、希望する大会に出場できるよう時間的なサポートをいただいています。
ーー竹村さんにとってトレイルランニングの魅力は何ですか?
竹村 陸上部に所属していた時、短距離走の大会や記録会が好きではありませんでした。強い高校だったのでシーズン中は毎週のようにレースがありましたが、誰かに見られることや、コーチに評価されることへのプレッシャーがストレスだったんです。小学生の時も、サッカーの試合より練習の方が好きでした。その点、トレイルランニングは純粋に自分自身が楽しむためのスポーツだと感じています。自然の中で自由な感覚で楽しめるのが魅力です。
ーー一番好きなコースやシチュエーションはどんなものですか?
竹村 走れないほど険しい上りや下りなど、アドベンチャー要素の強いコースが好きです。以前は「山岳レースが好き」と言っていましたが、最近ではスピード化されたレースよりも、天候が荒れたり、コースが荒れていたりする方が面白いと感じます。ただの走力だけでなく、状況への対応力が試される場面に魅力を感じます。もちろん、速く走ることはかっこいいですし、自分もそうなりたいという気持ちはあります。しかし、ロードレースとは違うトレイルランニングの面白さは、山の険しさにあると思っています。
限界への挑戦と完走への執念

ーー現在の主戦場はどの辺りだと考えていますか?
竹村 そこが難しくて(笑)。現状の流れで言うと100マイルで上位を目指していく感じなのですが、「TOR des Geants」(イタリア・約330km)や「TransPyreneA」(フランス/スペイン・約900km)のような、ゴールできるかどうかもわからないような難しい距離やコースにもチャレンジしたいです。
ーーそれは「自分の限界を知りたい」という気持ちからですか?
竹村 そうですね。超長距離レースは、普通のレースでは通らないような素晴らしいルートを走れることや、ゴールした時の感情が特別なものになるだろうという魅力があります。宿泊を必要とするステージレースよりも、スタートからゴールまでを通して走るレースやFKT(最速記録)で自分の限界に挑んでみたいです。
ーーターゲットレース以外にもかなりレースのスケジュールを詰め込んでいると伺いましたが。
竹村 はい、距離に関わらず、楽しそうだなと思うレースに出ています。
ーー「楽しそう」と感じる基準は何ですか?
竹村 規模の小さな、アットホームな雰囲気の草レースがどちらかというと好きです。距離やハードさよりも、主催者が作り出すレースの空気感を重視します。20〜30kmくらいのレースでも、雰囲気が良さそうだったり、知り合いが出たりするなら参加します。登りだけを走るバーティカルレース(4〜5kmで標高差1000m程度)も、雰囲気が良ければ出ていますね。
ーー竹村さんの強みはどんなところですか?
竹村 二つあると思っています。一つ目は、浮き沈みが少ないことです。自分としては感情の浮き沈みを感じることはありますが、周りからは「感情が表に出にくい」とよく言われます。レース中、相手からは私がどこまで余力があるのかわかりにくく、「淡々と走り続けるな」という印象を与えるようです。二つ目は、レースを「完走」する切り替えのうまさです。レース中に調子が悪くなっても、途中で諦めてしまうのではなく、完走することを第一目標に切り替えることができます。以前、Mt.FUJIのレースで、30km地点ですでに力が出なくなり、一度は「もうダメだ」と諦めかけました。しかし、無理にペースを維持しようとせず、一旦ペースを落として回復を試みた結果、後半にかけて再びペースを上げることができ、最終的には10人以上抜き返してゴールすることができました。もしあの時、無理をして突っ込んでいたら、途中で止まってしまっていたかもしれません。「絶対にレースを止めない」という強い気持ちが、このような状況での粘りにつながっているのだと思います。
ーー8月に「L’Échappée Belle(レ・シャップ・ベル)」(フランス)のインテグラーレ(約152km)に出場して8位ということですが、振り返ってみた感想を教えてください。
竹村 目標は25時間半以内で3位入賞、あわよくば優勝でした。しかし、正直なところ、このタイムは非常に厳しいもので、結果として目標には全く届きませんでした。27時間半というセカンドプランのタイムも達成できず、コースの厳しさに耐えきれなかったというのが正直な感想です。コースは最初から岩が多く、上りも下りも段差が激しい場所が多いため、足へのダメージが蓄積してしまいました。眠くなってもすぐ回復することが多いのですが、今回は前半から飛ばしたせいかもしれませんが、夜中は眠気でペースダウンしてしまいました。

ーーロケーションはいかがでしたか?
竹村 基本的には良かったことばかりです。特に、標高2000mを超えるエリアでは、日本では見られない壮大な景色を堪能できました。木々がなくなり岩場になったコースの上の方を走るとき、周囲の高い山々や多くの湖を見ながら走る経験は、とても素晴らしいものでした。
ーー海外の選手と比べて、何か違いを感じましたか?
竹村 一番驚いたのは、彼らのポールワークの技術です。特に、上りでのポールの使い方が非常に上手でした。また、2〜3人、多いときは5人ほどのグループで固まって進んでいる選手が多かったですね。

フランスアルプスの名峰ベルドンヌ山塊を舞台に開催されるL’Échappée Belle(レ・シャップ・ベル)は、その名が示す通り「美しき逃避行」を体現するトレイルランニングレースだ。過酷さと美しさが絶妙に調和したこの大会は、世界中のトレイルランナーから畏敬と憧れを集めている。大会は参加者のレベルや挑戦意欲に応じて複数の種目を用意。メインイベントとなる「インテグラーレ」は約152km、累積標高約11,400mという圧倒的なスケールを誇る長距離レース。一方、より短時間で山岳レースの醍醐味を味わえる「スカイレース」は約21km、累積標高約2,000mに設定され、急峻なルートを一気に駆け上がる爆発力が問われる。

コースの最大の特徴は、ベルドンヌ山塊特有のテクニカルな地形にある。複雑に入り組んだ岩稜帯では、ランニングというより登攀に近いスキルが求められる場面も多い。足元に神経を集中させながら、時には手も使って岩場を越えていく必要がある。さらに、距離に対して非常に大きな累積標高が設定されているのも大きな特徴だ。急峻なアップダウンが次々と現れ、参加者の体力と精神力を容赦なく削っていく。しかし、その過酷さと引き換えに得られるのは、フレンチアルプスでしか味わえない壮大な絶景だ。雪化粧したピークや深い谷間、高山植物が咲き乱れる草原など、息をのむような景色が疲労を癒してくれる。
・公式サイト:https://www.lechappeebelledonne.com/
信頼を置くギアと自分なりの使い方

ーー愛用のMILLET(ミレー)のギアについて教えてください。
竹村 バックパックは主に「INTENSE PRO 5L(インテンス プロ 5)」を愛用していますが、装備が多い場合は15Lのものと使い分けています。「L’Échappée Belle」では5Lでギリギリ収まりました。「INTENSE PRO 5L」はポケットの構造が使いやすく、体にしっかりとフィットするのが最大の魅力です。ポールを使用する場合は「INTENSE QUIVER(インテンス クイバー)」を使うと出し入れをスムーズに行うことができます。アパレルでは「INTENSE PRO LIGHT SHORT M(インテンス プロ ライト ショートパンツ)」を愛用しています。ウエスト部分にポケットがあって、スマートフォンなど、すぐに取り出したいものを入れておくのに便利です。薄手ですが、累積標高2万m相当を走っても破れないくらい丈夫なのには驚きました。


ーー今年登場した注目のレインウェア「TYPHON PHANTOM FAST JACKET(ティフォン ファントム ファスト ジャケット)」はいかがですか?
竹村 はい。トレイルランニングにぴったりだと思います。超軽量で透湿性も高いので気に入っています。荒天の日はもう少し厚みがあってしっかりしたレインを着る人が多いのですが、私は厚いレインは持たず、厳しい天候の時は「TYPHON PHANTOM FAST JACKET」を2枚重ねて着ています。2枚持っても重量的には軽いですし、雨や風の状況によって1枚で着るか2枚重ねるかを選べるのも利点です。

ーーMILLETと言えば、ベースレイヤーの下に着る「DRYNAMIC MESH(ドライナミック メッシュ)」アンダーウェアをマストアイテムにしているランナーも多いですが、竹村さんはどのように活用していますか?
竹村 「DRYNAMIC MESH」は、汗冷え対策に優れた効果を発揮します。網目が大きくて通気性が高いのに、厚みがあるので保温力もあるのが特徴です。気温差が激しい山岳レースで特に役立ちます。冬でもマイナス5度くらいまでなら、「DRYNAMIC MESH」の3/4 スリーブの上に直接ウインドシェルを着るだけで対応できます。速乾性のTシャツはあえて着ない方がいいことが多いですね。「DRYNAMIC MESH」は肉厚で空気の層ができるので、上に何か羽織ればすぐに暖かくなります。暑くなったらファスナーを開けて一気に熱を逃がすこともできるので、体温調整がしやすいんです。ちょっと教科書とは違うレイヤリングになりますが(笑)。

ーー今後の活動、目標などについて教えてください。
竹村 2026年の「TRANS JAPAN ALPS RACE」(TJAR)に出場できたら、またチャレンジしたいですね。「UTMB MONT-BLANC」や「TOR DES GEANTS」にも出てみたいです。やりたいことはたくさんあるので、そういうチャレンジができる環境づくりもしっかりとしていきたいと思っています。
ーーありがとうございました。
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【Movie】 MILLET_2025 L’Échappée Belle_A Pure Struggle
フランス・ベルドンヌ山塊で開催される山岳レース「L’Échappée Belle」 は、圧倒的な標高差、テクニカルな地形、変化に富んだ自然環境により、ヨーロッパ屈指の難関レースと称され、世界中のコアなランナーから愛される大会です。
2025年8月、この厳しいレースに、2人のMILLETアスリート、竹村直太と佐俣明香莉が挑見ました。
山岳カルチャーの本場で、2人が見た新たな景色とは………
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竹村 直太(たけむら・なおた)
1993年5月18日生まれ 京都府出身 石井スポーツ所属、MILLET契約アスリート。中学から大学時代は陸上競技に打ち込み、社会人になってからトレイルランニングを始める。2022年「信越五岳トレイルランニングレース」の100マイルで2位となり注目を集める。2024年にMILLETが協賛する「上州武尊スカイビュートレイル138K」でも優勝。ロングディスタンスを得意とする、今もっとも勢いのある若手ランナーのひとり。
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■About MILLET
1921年にフランスで誕生したアルパインブランド・ミレー。
1950年、フランス隊による人類初の8,000m峰・アンナプルナ登頂を支えたのはミレーのバックパックでした。この歴史的快挙をきっかけに、マウンテニアリングの世界で一躍脚光を浴びたミレーは、その後も、時代を代表する山岳ガイドやアスリートとともに歩みを進め、今日に至るまで、フランスを代表するアルパインブランドとして成長を続けてきました。創業から100年が経った現在も、名峰モンブランの麓から、変わらぬ情熱と積み重ねた経験を活かし、独創的で革新的な製品を世界へ発信し続けています。
・https://www.millet.jp/















