日本マラソン界の発展に大きく寄与し、日本における「マラソンの父」と称される金栗四三。
2019年NHK大河ドラマ「いだてん」の前半部分の主人公として、全国的に知られるようになりました。ランナーとしてはもちろん、指導者としても活躍しましたが、著書があることはあまり知られていません。
現役ランナーだった1916年(大正5年)、金栗が25歳の時に本書の原書となった『ランニング』(菊屋出版部)が刊行されました。
原書は短距離ランナー明石和衛との共著となっており、長距離走の部分を金栗、短距離走の部分を明石がそれぞれ執筆しています。
このうち本書では、金栗が執筆した長距離走の部分を「新装復刻版」として復刊しました。原著は旧字体、旧仮名づかいで書かれていますが、復刊にあたり、文体を損なわない範囲で、新字体、現代仮名づかいに改めました。
原著の「はじめに」にあたる「緒言」では、「あてどなくやっている人が熱心努力の結果、上達進歩しても、その方法なり、注意なりについて自己の意見を発表し、書き残すことをしないので、その人が亡くなればその後は、もとのもくあみ、また新たに工夫せねばならないという傾向であった。誠に遺憾千万ではないか。(中略)ここに吾人は大いに感じるところあり、不肖を顧みず、これら各種の競技に関して要略だけを書くことにした。」と刊行の意図が書かれています。
自身の上達だけでなく、後進への期待と日本陸上界の発展への強い思いが伝わってきます。読者の方々にその思いを伝えることも、復刊の狙いです。
金栗は本書の中で、体格で西欧人に劣る日本人が、どうすれば国際大会で勝てるかを、練習法だけでなく、食事、日常生活にまで踏み込んで、具体的に指導しています。
「走るときの目線は3、4間前方を見る。手と足と呼吸は連絡して調和させる。一呼吸を4分割する。長風呂や熱い風呂は筋肉が緩む」等々。
金栗を尊敬する増田明美さんは、「当時としては画期的な内容。指導者もいない、学ぶべき本もない。そんな状況でこれからの日本の陸上界のことを真剣に考えていたことが、すごい」と評価します。金栗が伝えたかったこと、現代の理論との対比を、増田さんがユーモアを交えて解説しています。
復刻新装版 ランニング
■価格/¥1,620
■金栗 四三 (著), 増田 明美 (著)
■単行本(ソフトカバー)/160ページ
■出版社/時事通信社
■発売日/2019/3/29