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スコット・ジュレク interview2 「ZONEの正体 ~Identity of the zone」

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僕は”ZONE(ゾーン)”から出たり入ったりできるんだ

「投手の投げたボールが止まって見えた」「バスケットのリングが大きく見えた」「全てがスローモーションだった」。スポーツの世界で普段あまり感じることのない不思議な瞬間を表現する話はよく聞く。一般にそれらを”ZONE(ゾーン)”とかFLOW(フロー)と呼んだりする。無心であり、極限の集中状態だ。彼も自著『EAT & RUN』(NHK出版 )の中でZONEについて触れている。

「予期せぬ瞬間に突然生まれる禅的な『悟り』で、しばしば体を限界まで追い込み続けたときに現れる。(中略)僕が幸運にもその感覚を経験するのは、レースの負荷や勝利へのプレッシャーや痛みがもう耐え切れないレベルに達してしまった瞬間だ」(スコット・ジュレク , スティーヴ・フリードマン 『EAT & RUN』(NHK出版、2013年)

この記述について、どうしても聞きたかったのだ。

――スコット、” ZONE”って何?
すると彼は、ひとしきり一般的な” ZONE”の話をした。マイケル・ジョーダンが何本シュートを打っても外さない感覚だとか(MJを出すあたりがアメリカ人っぽい)、アーチェリーの選手が的が大きく見える話やら、そういう感覚と似ていて、走っていて感じる” ZONE”も、全てがうまくいくような、波に乗ってどこまでも走り続けられるような感覚だと話してくれた。
そうだよね。それは何となく分かるんだ。でも、ちょっと待ってスコット。ベースボールでもバスケットでも、アルペンスキーヤーであっても、” ZONE”って一瞬だよね? ピッチャーとバッターの世界はコンマ何秒の世界だし、アルペンスキーでも数分。だけど、あなたが体験してきた競技は、100マイルだとか、10数時間以上走り続けるだとか(彼は24時間マラソンの全米記録保持者でもあった)、決して瞬間芸ではない。エンデュランス系の” ZONE”も一般的なスポーツのそれと同じなの?

jurekantonio4「科学的な説明は難しいんだけど、たぶん違うと思っている。確かに僕が体験してきたことは瞬間のスポーツではないから、もっと人間にとって根源的なことから生まれてくるものかもしれないね。” ZONE”に入る瞬間をスィートスポットって呼ぶんだけど、僕の場合は、痛みとか苦しみとか肉体的な限界を超えた先や、精神的にも『もうこれ以上無理だ……』っていう極限にならないとスィートスポットに当らない。その為には16時以上間走り続けないといけないんだ(笑)。そう考えると、他の一般的なスポーツと違って、” ZONE”に出会える確率は少ないのかもしれないね」

――走る度に毎回” ZONE”に出会えるの? それともレアケースなの?
「滅多に” ZONE”には出会えない。毎回だったらいいけどね(笑)。でもね、一度” ZONE”に入ると、そこから出たり入ったりできるんだ。それはコントロールできるんだよ。『自分の意識が頭から数十センチ上にあって、物事が広く俯瞰して見える状態とか、意識が肉体から離れている感じというか、それまでの痛みは消え、この先走るトレイルの様子がいつまでも見通せるような感覚』とか言う人がいるけど、僕も同じだね」

――彼ほど経験が豊富で、多くのことを体験してきたのであれば、”ZONE”に入るスイッチみたいなのを習得しているのだろうか?
「”ZONE”に入るスイッチか……。答えを先に言うとまだ獲得していないかな。これかなぁというのはなくはないんだけど、スイッチみたいにパチンとやれば”ZONE”に入るというところまではまだまだ。実際に、1分程度で終わってしまう”ZONE”もあるし、数時間続くこともある。このことについては次の書籍で書こうと思っているんだ。楽しみにしててよ。え? ビジネスマンだって? まぁね(笑)」

――”ZONE”はランナーズハイと同じ? それとも別なの?
「僕は違うものだと思っている。ランナーズハイについては科学的な解明もされてきているし、5kmくらいの距離でもハイの状態になれることがあるでしょ。たぶん瞬間的な集中力とか関係あると思うんだけど、僕が体験してきた”ZONE”は十数時間も走り続けて、肉体も追い込んでやっとスィートスポットに出会えるかどうかのもの。だから、違うものだと考えている」

一般には内在性鎮痛系にかかわり、脳内麻薬と呼ばれるエンドルフィンが分泌され多幸感をもたらすと考えられている。酸素の需要量と供給量のバランスがとれた状態(心拍数や血圧が安定して楽になる状態)をいうセカンドウィンドとも違う。

”ZONE”は超集中状態だったり、興奮の極地点だったりという要素もあるそうだが、必ず、凄く冷静な自分も存在しているという。一度”ZONE”に入ると、そこから出たり入ったりできることや、その時間感覚がバラバラであること、ランナーズハイとは違うと明言する意味など、僕たちの限界を超えた先には、まだ見ぬ人間の計り知れない能力が隠されているのだろうか。

「自分の力は自分が持っているが、本当の自分のことを最も知らないのも自分だ」というセバスチャン・シニョーの言葉がダブる。

スコットと話をしていると、仏教の修行の中で荒行中の荒行と言われる千日回峰行を満行された塩沼亮潤大阿闍梨(マラソンモンク)の話とリンクしていった。塩沼さんも修行中に『自分の意識が頭から30cm上にある』という状態を体験していたが、「限界の先は死だ」と悟っていたこともあり、必死でお経を唱えながら頭上にある意識を元に戻すことをしたと言っていた。スコットが”ZONE”を「禅的な悟り」と表現するのは、あながち間違っていないのかもしれない。

スコットがマラソンモンクの話にかなり食い付きを見せたところで、ごめんよスコット。こちらもビジネスマンなんだ。続きは、次に来日した時にしようぜ! と言うと、彼は屈託なく笑ってくれた。

 
文/山田洋
取材協力/BROOKS   http://brooksrunning.co.jp

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スコット・ジュレク interview
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