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【Notace】創業者セドリック・スコット インタビュー 「日本の美学が導いたナチュラルフットウェア革命」

 

ナチュラルムーブメントの思想と、日本的な美意識が融合したフットウェアブランド、Notace(ノータス)。創業者のセドリック・スコット(Cedric Scotto)氏は、長年にわたりランニングとフットウェア開発の最前線に立ち、足本来の動きを尊重する新しいシューズ文化を提案しています。Notace初のプロダクト「Yama T1」は、シンプルで意図あるデザインと高い機能性で注目を集める一足です。今回は、ブランド誕生の背景から日本文化への敬意、そして今後のビジョンまでを語っていただきました。

 

 

日本的な精神によって形づくられたUSAブランド

 

ーー セドリックさんはどんな経歴をお持ちなんですか?

セドリック・スコット(以下、セドリック) フットウェア業界に入る前は、ゴルフの奨学金でアメリカの大学に留学し、卒業後はプロゴルファーとして活動していました。その後、修士課程に戻り、バイオメカニクスやランニング動作、シューズの影響を研究。ランニング専門店での勤務をきっかけに、研究・開発・営業・カントリーマネージャーなど、業界内で多様なポジションを経験しながら、「動き」と「パフォーマンス」への情熱を深めていきました。


ーー Notaceを立ち上げた理由は?

セドリック ナチュラルフットウェアという分野には、まだ大きな空白があると感じていました。これまで情熱を注いできた領域で、その隙間を埋めたいという思いが原点です。ビジョンは明確で、体の自然な動きを尊重しながら、デザイン哲学とディテールへのこだわりを融合させること。機能性と洗練を両立したシューズを生み出せると確信して、Notaceを創業しました。


ーー アメリカではベアフットシューズ市場が広がっていると聞きました。

セドリック 健康やパフォーマンスへの意識が高まっているからです。それに伴い「ナチュラルなフットウェア」も拡大しています。人々はようやく “健康的なシューズ” の存在に気づき始めたばかりで、成長の余地は大きいです。ただし、Notaceはベアフットブランドではありません。ベアフット的要素を持ちながら、快適さ・保護性・デザイン性を兼ね備えています。


ーー ファーストモデル「Yama T1」は日本語の「山」が由来ですよね?

セドリック そうです。日本のデザイン哲学や精密さ、「生きがい」といった価値観が、自分の信念と深く響き合いました。清廉な美学、意図あるものづくり、思慮深い暮らし方……、それらが私の指針です。Notaceの設立当初から日本の開発チームと協力し「シンプル」「意図」「洗練」という共通の価値観をプロダクトに注ぎ込んでいます。Notaceはパフォーマンス、哲学、精密さが交わる地点から生まれ、日本の精神によって形づくらたブランドなのです。


ーー 日本のどんなプロダクトから影響を受けましたか?

セドリック 特定の製品よりも、文化全体の影響が大きいですね。細部へのこだわりと忍耐、そして新しいものを作り直すより、既存のものを磨き上げていく姿勢。丁寧に学び、完成度を高めていく料理や、時間をかけて仕上げられる布など。そうした「継続的な進化」の精神が、私たちのものづくりの基盤になっています。

 

 

ーー 日本美学の影響についてはどう感じていますか?

セドリック 「侘び寂び」や「禅」に象徴されるシンプルでクリーンな美学、そして職人技への敬意から強く影響を受けています。私たちは常に「意図を持ってデザインする」ことを大切にしています。余分なものを削ぎ落とし、本質だけを残す。その姿勢こそ、Notaceのデザイン哲学の中核です。

 

ーー Notaceにおいて「日本的」と感じる部分を具体的に教えてください。

セドリック 特定のモチーフではなく、「クリーンでミニマルなアプローチ」です。機能性に基づいたデザインで、理由のない装飾は排除します。「最高の製品をつくる」という意図と、細部への配慮が何より重要です。たとえば「Yama T1」では、つま先のプロテクターを足を守りながらデザインに自然に溶け込ませました。シューレースを通すハトメには2つに分けて圧迫を防ぎ、シュータンにはノッチを入れて可動性を確保。ライナーを加えて肌当たりを柔らかくし、インソールは感覚入力を高めながら靴擦れを防ぐ設計です。インソールを取り外せば地面をより近く感じられます。ヒールには合成スエードを採用し、ホールド感と快適性を両立。アウトソールとミッドソールはクッション性と柔軟性のバランスを追求し、ラグ形状は登り下りの両方で優れたグリップを発揮します。細部まで工夫されていますが、全体の印象はあくまでシンプルで美しい。技術を誇張せず、自然に溶け込ませる。それがNotaceにおける日本的なインスピレーションです。

 

Yama T1

 

ーー ブランドコンセプト「Escape the Noise(ノイズからの解放)」とのことですが、シューズにおけるノイズとはなんですか?

セドリック 不要な“機能風”の装飾や過剰なオーバーレイ、テクノロジーを装ったネーミング、派手な色使い、「最高」「最先端」といった誇張表現。そうした“ノイズ”を排除することです。必要なディテールは製品の中に自然に溶け込み、履く人自身が“体で体験する”ことを大切にしています。私たちは「少ないほど豊か」であり、目的はまさに「Escape the Noise」。流行を追わず、過剰につくらず、身体が本来持つ動きを尊重する。ノイズに満ちた世界の中で、私たちは「明晰さ」を選びます。デザインも素材もディテールも、すべてに意図を持ち、本質を磨き上げる。真のイノベーションは声高に語らずとも残り続けるものです。シンプルさと機能性、そして余分を削ぎ落とすことで生まれる自由。それこそがNotaceの哲学です。

 

 

ーー 開発で苦労した点は?

セドリック 製品開発には多くの時間と忍耐が必要でした。私はスピード感を大切にしますが、改良を続けるうちに「どこで完成とするか」を見極める難しさがありました。だからこそ、「改善」の哲学が活きています。新しいモデルを次々に出すより、既存モデルを毎シーズン磨き続けていくことを重視しています。

 

ーー 「Yama T1」はパフォーマンスシューズとして設計されたのですか?

セドリック はい。ただし、レースで自己ベストを狙うための “スピードシューズ” ではありません。足にとって何が自然で良いかを追求した結果、日常履きよりもアクティブなシーンで使えるシューズに仕上げました。

 

 

必要なディテールは製品の中に自然に溶け込んでいる

 

ーー Notaceはフットヘルスを重視しているとのことですが、それはどのように製品に反映されていますか?

セドリック 自然な足型のデザインにより足指を広げやすくし、母趾を正しく配置することで安定性と推進力を高めています。ゼロドロップ構造と柔軟なソールが自然な姿勢と荷重分布を促し、身体を変えるのではなく “本来の動きを引き出す” 設計です。


ーー 自然な足の動きを取り戻すことのメリットは?

セドリック 足が自然に動けることは非常に重要です。母趾の正しいアライメントや推進力の解放、安定性の向上は、アスリートだけでなく一般の人にも価値があります。ランニングやトレイルなど、目的に応じた最適なツール、例えば「Yama T1」を通じて、それを実感してほしいですね。

 

 

ーー 他のベアフットシューズやランニングシューズとの違いは?

セドリック ベアフットシューズのようにワイドなトゥボックスや柔軟性を持ちながらも、現代の硬い路面に対応するためのクッション性を備えています。尖った地形のトレイルや長距離のロード、高負荷のスポーツでも保護と快適さを両立できる。これがNotaceの強みです。自然なデザインを基本に、地面感覚を損なわずにクッションを加えています。従来のヒールドロップのあるシューズとは、快適性もバイオメカニクス的観点もまったく異なります。さらに、私たちは “走る人のためのシューズ” という枠にとらわれず、どんなスタイルにも馴染むクリーンな美学を重視しています。


ーー ナチュラルランニングシューズとの違いは?

セドリック ひと言で言えば「機能性」です。一般的なナチュラルランニングシューズと比べると、Notaceはより柔軟で、足がより自然に働ける設計です。見た目の美しさにもこだわり、日常のスタイルにも溶け込むことを大切にしています。さらにNotaceはマルチスポーツブランドへと進化します。トレイルやロードだけでなく、他のスポーツ分野にも“健康的な足づくり”の選択肢を広げていく予定です。

 

 

ーー Notaceを通じて、どんな体験を提供したいですか?

セドリック 他ブランドとの違いをすぐに感じてもらえるはずです。超軽量で柔軟、それでいて反発性とクッション性を両立するミッドソールが独自の履き心地を生みます。見た目の美しさにもこだわり、日常でも履きたくなるデザインを追求しています。長く愛用できる“日常に根ざしたパフォーマンスシューズ”を届けたいですね。


ーー 今後のプロダクト展開について教えてください。

セドリック 2026年3月に新しいロードモデルを発表します。クッションをただ増やすのではなく、軽量で柔軟、快適性と反発力を兼ね備えたシューズです。すべては用途に基づいた設計であり、目的のない機能追加は行いません。

 

 

ーー 5年後、10年後のNotaceのビジョンは?

セドリック マルチスポーツブランドとして進化し、多様な競技に自然な足型とゼロドロップ構造を導入する先駆けとなることです。既存モデルは改良を重ね、本当に価値あるイノベーションだけを追求します。そして他ブランドやクリエイターとの協業を通じて、自然な動きを尊重する文化をより広げていきたいと思います。


ーー ありがとうございました。

 

 

 

Profile

セドリック・スコット(Cedric Scotto)
2024年に誕生したナチュラルムーブメントとパフォーマンスを追求するアクティブフットウェアブランドNotace(ノータス)の創設者兼CEO。米ルイジアナ州のサウスイースタン・ルイジアナ大学を卒業後、現在はケンタッキー州ルイビルを拠点に活動している。ランニング業界での豊富な実務経験を背景に、足本来の機能と動きを引き出すプロダクトデザインを専門とする。これまでにAltra Runningでの国際業務や特別プロジェクト、Xero Shoesでのグローバルセールス、Vivobarefootでの北米・アジア太平洋地域の統括などを歴任し、ナチュラルフットウェア分野での確かな実績を積み重ねてきた。
2025年9月に発表したファーストモデル「Yama T1」は、ゼロドロップ構造、足形に沿うトゥボックス、柔軟なクッショニング設計を採用し、地面とのつながりを感じさせる走行感を実現。日本の職人技術に通じる“意図ある簡潔さ”に影響を受けたミニマルデザインが特徴で、ブランドコンセプト「Escape the Noise(ノイズからの解放)」を体現している。

 

 

■Notace:https://notace.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/notace_footwear_jp/

 

 

■Notace「Yama T1」のレビューはこちら↓

【Review】Notace 「Yama T1(ヤマ ティーワン)」

 

 

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