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【Report】「2025年世界マウンテン&トレイルランニング選手権」 日本代表団報告会

一般財団法人日本トレイルランニング協会は、「2025年世界マウンテン&トレイルランニング選手権」日本代表団の報告会を開催し、スペイン・カンフランで行われた世界選手権での戦いを振り返りました。

報告会では、代表派遣に向けて協会が立ち上げた「日本代表応援プロジェクト」への支援に感謝が述べられるとともに、選手たちが現地のコース状況やレースで得た課題、次戦へ向けた展望を語りました。

日本代表は日本陸連の派遣のもと、トレイルランニング協会が派遣対応を担いました。代表選考は2023年春から2024年春にかけて約1年間にわたり、8レースの選考競技会を実施。日本陸連も選考委員会に参加し、「世界と戦えること」を基準に12名のトップ選手を選出しました。

一方で協会会長の福田六花氏は、協会の財政状況が厳しい現実にも言及し、今回初めて「日本代表応援プロジェクト」を立ち上げた経緯を説明しました。「多くの支援によって派遣が成り立った一方で、選手には依然として大きな自己負担がある」と現状を明かしました。

 

写真提供:日本トレイルランニング協会

 

 

ピレネの“岩”と“急登急降”
「日本のふかふかなトレイルとは別物」

報告会では、現地で撮影されたオリジナル映像も上映されました。福田氏は開催地カンフランについて、「スペイン半島の付け根に位置するピレネー山脈の中のエリアです」と紹介し、「日本にはない凄まじい登りと下り、がれた路面で、日本のふかふかしたトレイルとはまったく別物でした」とコースの厳しさを表現しました。映像では、選手たちがその過酷な環境の中で激闘を繰り広げる様子が共有されました。

 

登壇した選手は、ショートトレイル男子17位の近江竜之介選手、同43位の笠木肇選手、ロングトレイル女子12位の秋山穂乃香選手、ロングトレイル男子67位の川崎雄哉選手、ロングトレイル男子95位の甲斐大貴選手の5名です。ショートトレイルに出場した上田瑠偉選手は体調不良のため欠席しました。

 

 

日本勢最高位は秋山穂乃香が女子12位
「好きで走るだけでは差が広がる」

ロングトレイル女子で12位に入った秋山選手は、山岳遭難救助隊での経験や、競技に向き合う中で芽生えたプロ意識が自身の転機になったと語りました。その一方で、「実力は出し切りましたが、海外と比べると練習メニューの段階から科学的な研究に差がありました。好きで、ただ走るだけでは世界との差が広がっている現状に直面しました」と振り返り、今後はトレーニングそのものを見直す必要性を強調しました。

 

近江竜之介「レース以前の準備で差」
現地入りの早さ、帯同体制に課題

ショートトレイル男子17位の近江選手は、ヨーロッパ勢の準備体制との差を指摘しました。「フランスチームなどは1カ月前や2週間前から開催地のピレネーで合宿を行い、シェフやフィジオが帯同する体制があります。一方で日本チームは現地入りが3日前で、レース以前の準備段階で大きな差が生まれていました」と語りました。

一方で自身については、「グローバルチームのキャンプなどを通して、自分が正しいと思っていたことが真逆だったと気づかされました。栄養面やトレーニング面で多くを学び、来年以降はもっと良いパフォーマンスを出せる感覚があります」と手応えも口にしました。

 

写真提供:日本トレイルランニング協会

 

笠木肇「世界は“対応力”が別次元」
ガレ場でもスイスイ進む上位勢

ショートトレイル男子43位の笠木選手は、レース展開とサーフェスへの適応力の差を実感したといいます。

「ロードの下りで周囲についていけず、女性トップ選手にも置いていかれました。ガレた石の多い区間でも、上位選手は難なく登り下りしており、対応力がまったく違いました」と振り返り、「日本でトレーニングを続けながらでも、サーフェスに対応する準備を変えていく必要があります」と課題を挙げました。

 

甲斐大貴「ヨーロッパは“走れない”険しさ」
登りは“走力”よりもハイクの速さが勝負

ロングトレイルに出場した甲斐選手(通称クレイジーカロ)は、アメリカとヨーロッパのコース特性の違いを指摘しました。2025年6月の「ウエスタンステイツ」で10位に入った一方、世界選手権の舞台となるヨーロッパについては「足場が固く、岩場やゴロゴロした石が多い“走れないコース”が多い」と説明しました。

さらに「ヨーロッパの選手は登りのハイクが非常に速く、こちらが走っても追いつけない」と語り、サーフェスへの適応力と登りでの強さが、世界との差として強く印象に残ったと振り返りました。

 

川崎雄哉「怪我で練習できず、それでも完走」
転倒で歯を欠くアクシデントも

世界選手権6大会連続出場となった川崎選手は、直前の怪我により「約3週間まともに練習できず、状態は5割程度でした」と明かしました。それでもトレーナーの治療と現地サポートを受けてスタートラインに立ち、「早く歩いた方が勝ちと言えるようなコースだったので、開き直って進みました」と振り返りました。

終盤には順位を上げたものの、ラスト5km付近で激しく転倒し、歯を欠くアクシデントにも見舞われました。「それでもしっかりゴールできましたし、少しは頑張る姿を見せられたと思います」と語りました。

 

(左より)甲斐大貴、川崎雄哉、秋山穂乃香、笠木 肇、近江竜之介。 写真提供:日本トレイルランニング協会

 

 

応援プロジェクトと広報強化
「一緒に戦う感覚が生まれた」

今回の特徴として、カメラマン帯同による広報強化と、LINEオープンチャットを活用した支援者とのコミュニケーションが紹介されました。福田氏は、「日本代表が凄まじい戦いをしているにもかかわらず、国内であまり知られていなかったのが残念でした。事前から選手の表情や意識を発信できたことは非常に大きかったです」と説明しました。

川崎選手も「現地にいても日本からの応援が届き、日本代表としてやめることを考えずに進めました」と語りました。秋山選手は金銭面の不安が精神的負担になる実情を明かしつつ、「支援が“心の防波堤”になりました」と感謝を述べました。

選手側からは、今後に向けて、エイド時間短縮のための事前合宿、作戦共有、現地試走の支援、食事面でのサポート(帯同シェフなど)といった具体的な要望も挙がりました。

 

次回世界選手権は2027年南ア・ケープタウン
「若い世代の育成が不可欠」

世界マウンテン&トレイルランニング選手権は2年ごとに開催され、次回は2027年に南アフリカ・ケープタウンで行われる予定です。選手たちはそれぞれ次戦へ向けた目標も語りました。

近江選手はゴールデントレイルワールドシリーズを見据えつつ、「5年後をピークに考え、もしオリンピック種目になれば、そこにターゲットを絞りたい」と展望を語りました。秋山選手はUTMBのCCCでトップ10入りを目標に掲げ、海外コーチのトレーニングメニューに刺激を受けているといいます。笠木選手はUTMBシリーズのレースでダイレクトエントリー獲得を目標に挙げました。

また、世界との差を埋める課題として、川崎選手と近江選手は「若い世代がチームで切磋琢磨するヨーロッパの環境」や「州単位で競争が成立している層の厚さ」を挙げ、日本でもU20・U23世代の強化が不可欠だと指摘しました。
福田氏も「協会は小さく、資金も人も足りないのが現状ですが、チームとして戦える体制を作らなければ結果は出ません」と述べ、将来的には世界選手権やアジア選手権の日本開催誘致にも意欲を示しました。

 

 

2025年世界マウンテン&トレイルランニング選手権
日本代表団 報告会
・日時:2026年1月31日(土)
・会場:株式会社ゴールドウイン本社
・主催:一般財団法人 日本トレイルランニング協会

登壇選手
・秋山 穂乃香(ロングトレイル女子 日本代表)
・近江 竜之介(ショートトレイル 日本代表)
・笠木 肇(ショートトレイル 日本代表)
・甲斐 大貴(ロングトレイル 日本代表)
・川崎 雄哉(ロングトレイル 日本代表)

 

■日本トレイルランニング協会:https://trailrunning.or.jp/

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