トレイルランニングシーンを席巻したメガヒット
フランスの山岳リゾート、アヌシーで創業したSalomon(サロモン)は、スキーのギアメーカーとして確固たる地位を築いたのち、サマーシーズンのマウンテンギアの開発に乗り出します。
1993年に初のハイクシューズの「ADVENTURE 7(アドベンチャー 7)」、1999年にはアドベンチャーレースをターゲットにした「RAID WIND(レイドウインド)」をリリース。そして、2005年には「XA PRO 3D」というヒット商品を送り出し、ニッチなプロジェクトにスポットが当たることを証明しました。現在、Salomonのラインナップにある「XA(クロスアドベンチャー)」を冠した製品は、この流れを汲むモデルと言えます。
さらに、「XA」とは別の新たなプロジェクトとして、より高速で軽量なフットウェアのニーズに応えるべく「SPEEDCROSS(スピードクロス)」の開発に着手しました。トレイルランニングがまだマウンテンレースと呼ばれていた頃でした。コンセプトは「山岳レースの限界を超える」。困難な斜面でも迅速かつ俊敏に駆け抜けるフライウェイトの製品を目指したのです。
アドベンチャーレースを次のレベルに引き上げ、トレイルランニング市場を攻略するための切り札として「SPEEDCROSS」が誕生したのです。
2006年に発売した「SPEEDCROSS」のファーストモデルは、モトクロスのタイヤにインスピレーションを得て、ロープロファイルで洗練された荒々しさを持つラギッドなルックス。アウトソールには大きなディープラグを配置して、優れたトラクションを発揮。シャーシは採用せずに軽量化を図りました。シャーシレスの安定性を疑問視する声もありましたが、この構造により山で速く走るために必要な俊敏性と推進力を得ました。
軽量で、岩や障害物から足を守り、濡れた岩やぬかるんだ路面でもしっかりグリップして安定した走りを実現する「SPEEDCROSS」は、Salomonが起こした一つの革命であり、トレイルランニングの発展に貢献することになります。
「SPEEDCROSS」は、大規模な市場調査やフォーカスグループから作られたのではなく、アルプスの麓に本拠地を置くSalomonの社内から必然として誕生しました。このため、当初は非常にニッチな商品だと考えられていました。ファーストモデルの販売数の予想は1,000足程度。ところが現在、ヨーロッパだけで年間100万足以上の「SPEEDCROSS」を販売しています。
それでは、歴代の「SPEEDCROSS」を振り返ってみましょう。
SPEEDCROSS 2
SalomonフットウェアのDNA
「SPEEDCROSS 2」は、オリジナルの「SPEEDCROSS」のエッセンスを残しつつ、Salomonのシューズとしてより親しみやすく、より認知されることを目指しました。
SalomonのDNAは足を保持するセンシフィットや、かかとを包み込むパワーバンドなどのテクノロジーにありました。Salomonは常にハードウェアを最優先して製品を設計してきたため、テクノロジーを際立たせることを主眼にデザインされました。
より頑丈でより攻撃的なシューズは、ユニークなデザイン要素のおかげで、Salomonのシューズとして簡単に認識することができました。このシューズの評価は高く、当時、Salomonのアスリートだったキリアン・ジョルネは、2008年のウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)で「SPEEDCROSS 2」を使用して優勝。他のほぼすべてのレースでも「SPEEDCROSS 2」を使用していました。
しかし、シャーシを取り外したことで、ヒール下の安定性に欠けるとの不満の声もありました。これは次世代の「SPEEDCROSS」でアップデートされ、最終的に「SPEEDCROSS」のさらなる成功につながっていきます。
SPEEDCROSS 3
安定性とメインストリームでの成功
Salomonのフェルランニングやトレイルランニングのアスリートからのポジティブなフィードバックにより、第3世代の「SPEEDCROSS」が登場します。安定性を高めるためにアップデートされた幅広のヒールが、初期バージョンにあった安定性の問題を解決。その他、シームレスのアッパーやよりクッション性の高いEVAをミッドソールに採用、アウトソールには衝撃で変形する深いグルーブも備えていました。
スコットランドのマウンテンランナー、トム・オーウェンズは、2008年から2011年までのトレイルレースで「SPEEDCROSS 2・3」を履き、2009年と2010年にトランスアルパインランで、2010年にはイタリアのシレイド世界選手権で、2011年にはセンティエロ・デッレ・グリンジ・スカイレースファイナルで優勝しています。オーエンスは、「SPEEDCROSS」の初期モデルについて、
「イギリスで販売されている一般的なシューズとは全く違っていた」と振り返ります。「トレイル区間ではとても快適で、しかもグリップ力がある。基本的にあらゆる地形に対応でき、足も快適だったんだ!」
SPEEDCROSS 4
ビジュアルアップデート
これだけ人気のあるシューズの手直しをするのは大変です。改良したいけれど、手を加えることによって、当初からのユーザーの人気を失ってしまうかもしれないからです。それでも、修正しなければならない点がいくつかありました。
「SPEEDCROSS 4」は、シューズを低くし、ラグを変えて、より使いやすくなるようにアップデートしました。この結果、「SPEEDCROSS 4」はさらなるヒットを飛ばし「SPEEDCROSS 3」の販売足数を上回りました。
SPEEDCROSS 5
レジェンドを再設計
「SPEEDCROSS 5」への挑戦は、新しくモダンな方法でシューズをアップデートすることでした。パフォーマンス面では、強化したグリップ、よりダイナミックなアッパーを提供しフィット感と安定性を向上させました。
「SPEEDCROSS 5」のソールには、より大きく、よりアグレッシブなラグとラグの間のスペースが増え、ジオメトリが更新され、あらゆる路面状況でグリップが向上しています。シューズのヒールユニットがかかとの受け台を作り、きれいな足の着地とストライド中の安定性を確保します。また、分離されたセンシフィットアームとよりトウボックスのボリュームをアップしたシームレスのアッパーを備えているため、足はより自然に動きます。
また、このシューズは、都市部の消費者やファッション界のデザイナーまでもが注目しました。「SPEEDCROSS 5」のカラーは、コアなスポーツユーザーに向けたものだけではありませんでした。トレイルランニングの世界だけにとどまらない、ウェアラブルなシューズを目指したのです。
SPEEDCROSS
トレイルからストリートへ
「SPEEDCROSS」のユニークなルックスは、デザイナーやトレイルランナー以外にも広く知られるようになりました。2015年、パリのファッションショップ「The Broken Arm」が、「SPEEDCROSS」の派生モデルであ「SNOWCROSS(スノークロス)の販売を依頼。「SPEEDCROSS」がファッションシーンで受け入れられるきっかけとなりました。。
「SPEEDCROSS 3」の象徴的なシルエットは、その後、新しいカラーパレットとグラデーションで何度も作り直されています。このユニークなルックスは、デザイナーが各要素で遊び、ディテールを追加し、シューズを適切な状態にすることで、異なる魅力が与えられました。
「SPEEDCROSS」は、先鋭的なデザインで生々しい感情を持っています。一目でトレイルランニングのために作られたシューズだとわかるから、流行を追いかけようとする他のシューズやブランドと比べると、とても魅力的なのです。
SPEEDCROSS 6
最新スペックで原点回帰
初代「SPEEDCROSS」の発売から16年、Salomonはグリップ力、軽量性、保護性に優れたトレイルシューズとして、オリジナルモデルのソースコードを忠実に再現した「SPEEDCROSS 6」を発表しました。
初代「SPEEDCROSS 」の大胆なデザインも踏襲しています。「SPEEDCROSS」シリーズの伝説的なルーツに忠実でありながら、より軽量なデザイン(298g)、そしてより速く泥を排出するY字型ラグを備えたアウトソールのアップデートによってウェットコンディションでのグリップ力を強化しています。
また、機能的でありながら足を包み込むようなアッパーに刷新したことで快適性も備えています。センシフィット構造が正確な足場を実現し、ミッドソールのエナジーセル+が快適なクッション性を提供します。
SPEEDCROSS 6
(スピードクロス 6)
・価格:¥17,600(税込)
・展開
Men’s(25.0-28.5cm・298g / 27cm)
Women’s(22.0-25.0cm・262g / 24cm)
・スタックハイト:32mm / 22mm
・ドロップ:10mm
・カラー:Men’s 5色 / Women’s 3色
※ワイドタイプの「SPEEDCROSS 6 WIDE」、防水仕様の「SPEEDCROSS 6 GORE-TEX」もあります。
■レビュー記事はこちら
Salomon 75th Special Contents
■Salomon:https://salomon.jp/
■explore Salomon:https://explore.salomon.jp/