2025年8月2日、東京都渋谷区の「THE NORTH FACE Mountain(ザ・ノース・フェイス マウンテン)」で、『山岳ランナー 土井陵 王者の称号』の出版記念トークイベントが開催されました。

本書は6月に平凡社から刊行され、トレイルランニングを中心にさまざまな媒体で取材、記事を執筆されている千葉弓子さんがトランスジャパンアルプスレース(Trans Japan Alps Race、略称:TJAR)のチャンピオン土井陵さんのこれまでの歩み、レースのこと、これからのことなどについて長年の取材を経て完成した1冊です。


皆を惹き付ける理由
開場時刻になると参加者が続々と集まり、会場は瞬く間に熱気に満ち溢れました。そして開始の合図とともに、千葉さんと土井さんが登場。二人の姿を目にした参加者から歓声が上がり、雰囲気は最高潮に。
司会を務めたフリーアナウンサーの浅利そのみさんからまず、
「なぜこのタイミングで土井さんの本を出そうと思ったのでしょうか」
との質問が投げかけられ、千葉さんは、
「本書について具体的に動き始めたのは1年半前です。土井さんのことはずっと前から気になっていて取材をしてきました。そのような中でいつか土井さんにフォーカスした書籍にまとめることができたらと漠然と想いを抱き始めたのは2022年のトランスジャパンアルプスレースでした。皆をこれほど惹き付けるのはいったいどういうことなんだろう? もっと土井さんのことを知りたいという想いが日に日に高まっていって取材を積み重ねてきました。その集大成が今回刊行した1冊となりました」
と話しました。
話題が土井さんの装備品におよぶと、
「とにかく軽くすることを目指して試行錯誤を積み重ねてきました。例えば、ボールペンは芯だけです。本当に数ミリグラムの世界ですが。こうした意識はおそらく普段の僕の生活、仕事の影響が大きいんでしょうね。ルーティンをひたすらやって、それをいかに効率よく回して最大限の成果を上げるということを常に考えています」
と土井さん。
「土井さんは普段、消防署に勤務されています。職業柄でしょうか、事前の準備がとても緻密で、それが多くの方々の共感を呼ぶのだろうと感じています」(千葉さん)

土井さんのすべてを象徴するカバー写真
イベントは本の内容だけではなく、山岳カメラマンの武部努龍さんが撮影したカバー写真にも話題がおよびました。土井さんの力強い目線がとても印象的な写真は剣岳で撮影された1枚。千葉さんは写真を選んだ理由を次のように話しました。
「土井さんの強さを感じる写真をカバーに載せたかった」
さらに、
「トップランナーのみなさんは、みなさんそれぞれ、“このランナーだったらこの写真”という象徴的な写真があるんです。この武部さんの写真はまさにそういう写真だと思っています」
と述べました。
大変印象的な写真を撮影された武部さんもずっと土井さんのことを追い続けてきました。武部さんと親交のある司会の浅利さんからは、
「足にマメができてしまって土井さんはとっても辛そうだったけれども、人として土井さんがどんなフィニッシュをするのかを見守っていたかった」
という撮影の裏話も披露されました。

“応援”が一番のエネルギー
国内外の数々の過酷なレースに参加している土井さんですが、とりわけ2024年のトランスジャパンアルプスレースについては「今まで以上にとても感慨深いレースだった」と話しました。
“日本一過酷なレース”と謳われるほどだけあってレースそのものが過酷。足のマメがひどくなり、「何度もやめようと思った」と土井さんは当時を振り返りました。
さらにレース直前の8日に南海トラフ地震臨時情報発表があり、それを受けて出場予定だった望月将悟さんが業務の関係で出場を辞退したことの影響も大きかったと言います。そのようなさまざまな過酷な背景がありつつも、スタートから5日1時間26分、見事トップで静岡市の大浜海岸に到達した土井さん。
「最後までやり遂げることができたのは“応援”のおかげです。応援してくれる人がいるというのが一番大きい」(土井さん)
また、何度も襲いかかる身体の痛みに耐えながら前進する土井さんの姿を追っていた千葉さんは「“挑戦の炎”が消えない人だと思った」と当時のことを思い出しながら話されました。

自分にしかできないことに挑戦したい
「これから挑戦したいことは?」という質問に対しては、
「100マイルのレースはどんどん参加したい。またレースのオーガナイズにも挑戦していきたいですね」
と土井さん。
「もう40代なんですが、まだまだ落ち着かないですね」
とも述べ、参加者の笑いを誘う場面もありました。
トークの締めくくりには、土井さんがかつて旅をしたガラパゴスやエクアドルなどの写真も公開され、「おー!」という声を出す方も。40名の参加者は熱心に二人の話に耳を傾け、イベント終了後にはサイン会も行われました。サイン会では参加者の皆さんが土井さんに熱いメッセージを送ったり、レースの近況報告をしたり、土井さんにトレーニングのアドバイスを求める姿が多く、一人ひとりに向き合ってい土井さんの姿が大変印象的でした。

Photo:小川拓洋
書籍情報
『山岳ランナー 土井陵 王者の称号』
著者:千葉弓子
定価:本体2,000円(税別)
総ページ数:216ページ
発行元:株式会社平凡社
https://www.heibonsha.co.jp/book/b662227.html