2018年5月3日~4日140kmの部に、愉快な仲間たちと参加してきました。私にとって人生最長距離だ。ドキドキ。
『萩往還』とは……。慶長9年(1604年)毛利輝元が茨城築城後に、山陰と山陽を結ぶ参勤交代道として開かれた道。この大会は、参加者同士の親睦を深めつつ、山越えもあるこの険しい歴史の道を探索することを主旨としているのだ。ちなみに、この大会が行われるのは今年が最後とのこと。
我ながら「140kmを走ろうだなんてどうかしてるぜ?」と思うものの、250kmを走る、さらにどうにかしちゃっている仲間たちも2人いるのである。スタートは、距離によって場所と日時がバラバラだけど、ゴールはみな同じ、山口市は瑠璃光寺。日本三名塔でもある国宝の五重塔が美しい。ゴール制限時間は5月4日18:00。「みんなでゴール!」を合言葉に、それぞれのチャレンジが始まる。
140kmの部は、5/3の18:00スタート。自分の走力からいって、制限時間内にゴールするためには、次の日(5/4)の18:00までは眠らずに走ることになるだろう。新幹線内で仮眠をとる、はずが! 前夜から、ずぅ~っと、うっすら緊張し続けているので、なかなか寝付けない。目だけつむっていても脳の休息になると聞いたことがある。試してみよう。
11:47 山口県上陸。会場へ行き、受付を済ませて、15:00からのコースガイダンス(必須)に参加。なんせ長い道のり。ガイダンスは1時間にも及んだ。スライドで映し出されるコース写真を見ながら、ポイントを押さえていく。実際、その場に行ったら思い出せるだろう。ガイダンスが終わると、緊張の度合いは『うっすら』から、いっきに『バクバク』へ。呼吸が上手く出来ていない。酸素が薄い気さえする。
「みほさん、緊張がこっちまで伝わってくる!?(笑)」
仲間に見守られながら、身支度を整える。ドロップバックを2箇所(49.6km/105.1km)置けるので、各地点の状況を考慮して、必要なものを詰め込む。それぞれ預ける場所が異なるので気を付けないと。間違えたらえらいこっちゃ。
萩王還はウェーブスタート。最後尾に並ぶ。1ブロックに20~30人くらい。数分間隔で「えいえいおー!」の掛け声とともにスタート。風が強い。じっとしていると冷えてくる。15分経った頃、いよいよ自分の順番がやってきた。さて、いっちょ行ってみっか!?
「えいえいおー!」
24時間のLSDが始まった。この大会では歩道を走らなければならないので、狭いところでは一列走行。昨年、140km(B)を走った仲間から「最初はペース上げ気味で行って、後半に貯金を作った方が良いよ」とアドバイスをもらったので6分30~7分00で走ってみる。確かに、夜の方が涼しくて走り易いかも。19:00を過ぎると暗くなってきた。ヘッデンを装着。140km(B)の部は、山口(瑠璃光寺)~防府~山口~萩~山口……と、山口を中心に防府と萩を往復するコースになる。山口~防府間は262号沿いを走ることになるが、外灯が少ないところもある。単調なコースを淡々と走る。時折通る車のヘッドライトが明るく足元を照らし出し、視覚的にも刺激となる。
すると、予報にはなかった雨が降り出した。結構な勢い。シェルを着る。あれ? なんか白いものがパラパラと地面を跳ねては転がっていく。水前寺ではなく、横田でもなく……。まさかの雹(ヒョウ)!? え~~、雨の予報さえなかったのに雹まで。うそでしょ!? しかし、走っていることもあって、さほど寒くはないのが救い。雹が降ったのはほんの一瞬だけで、そのうちに雨も上がった。事前に、絆創膏とキネシオテープでマメが出来ない様に保護してあるけれど、雨で濡れるとリスクが高くなる。大丈夫、靴の中までは濡れていないようだ。相変わらず風は強く吹いていて、雨で濡れた身体を乾かしてくれた。今日はこれがシャワーとドライヤーかな(笑)
20:50 たそがれ庵(21km過ぎ)着。お腹が空いたので、うどんとお茶をいただき、エイドを出た。たそがれ庵を出ると、急に木の生い茂る狭くて真っ暗な登り坂に。鯖山峠だ。木のトンネルの中をヘッデンの明りがピンポイントで照らしだす。まるで遊園地のアトラクションのよう。どうしよう……。 暗過ぎる。他のランナーがいたので、付いて行くことに。すると、にわかに周りから奇妙な音が聞こえてきた。何?! 何なの?? 増すアトラクション感。山・草陰・雨……。状況からして、どうやらカエルらしい。カラスとヒヨコを足して2で割ったような鳴き声…ケロケロ♪ではないので気付かなかった。登り坂は短く、すぐにゆるりとした下りに差し掛かった。道の遠く先に、街の明かりが見えてきた。あれが防府か。
【CP1】
22:04 英雲荘着。折り返し地点(29.3km)だ。軽く給水だけ済ませて、エイドを後にした。行きに下って来た道を、今度は登らなければならない。ちょうど、同じくらいのペースで走っている男性2人がいたので、ストーキングさせてもらう。登りでは歩いている人も多く、2人についてゆるゆると抜かしていく。カエルの鳴き声の響く真っ暗な道を抜けると、再びたそがれ庵に戻って来た。うどんは往路か復路のどちらかで食べられる。私は先程いただいたので、往路ではスルー。大概の人が往路で給食したらしく、テーブルはガラガラだった。ココからは、しばらく明るい道なので安心。次のエイドである山口市福祉センターをひたすら目指す。単調であるが故に、ココからの道のりはとても長く感じてキツかったぁ。エイドに着く直前に、女性ランナーが「何とか1:00に間に合いましたね!」と話し掛けてきた。ココに1:00に着くことを目標にしていたとのこと。まぁ、順調ってことかな。ヨシヨシ。
【CP2】
1:00 山口市福祉センター(49.6km)着。ドロップバックをピックアップする。中には、タイツ・ゴアテックスジャケット・予備のヘッデン・甘酒・ファーストエイドキット・スイーツを入れてある。この先は、いよいよ萩王還。靴を脱いで休憩所に入る。タイツを履き、ジャケットを着て、ヘッデンの電池を新しいものに交換する。山に備えて、荷物が少し重くなる。お味噌汁を飲んだけれど、食欲はいまいち。ドロップバックに入れておいたスイーツも食べなかった。何かエネルギーになるものをと、甘酒を飲み干し、おにぎりを一口だけかじる。休憩所を出ようとしたところで、瑞々しく色鮮やかなオレンジが目に留まった。かじってみると甘くて美味しい♪ 止まらなくなる。カットされていたけれど、丸々1個分は食べたと思う。なんでだろう。フルーツだったらいくらでも食べられる。こうして、このエイドでは30分を費やした。
時間は1:30を回っている。萩往還の入口を目指して歩いていると、眠さで頭が朦朧として蛇行。下りになったので走り出すと、前を歩くハスキー犬の被り物をしたおじさんと女性に遭遇。
「あ、元気な足音♪」
私が近づいていくと、女性がそう言った。他のランナーも軒並み歩いているので「ココは走らない方が良いんですかねぇ」と言いながら抜かそうとすると、2人とも走りだした。しばらく併走。
2:20萩王還道入口着。石碑の写真を撮る人がたくさん。いよいよ山道に突入。周りにはたくさん人がいるので頼もしい。と思ったのも束の間、そこそこの登りが続くので、途中、祠のある場所で大抵の人が一休み。私はそのまま登り続ける。前方に気配を感じたので見ると、なぜか上から下ってくるランナーが。おかえりなさい…ん?『A』ゼッケンを付けている…… って、えぇA!? もうすぐゴールということか…… 速い。噂には、250km(A)走り終わって、70km(C)の部に参加する猛者がいる、と聞く。要は320km走るってこと。恐ろしいことをするものである。ブルブル。
ココまで50km以上走ってきたとは言え、まだまだ脚は動くみたい。気が付くと近くには、あのハスキー犬おじさんだけ。パワーウォークでグイグイ登って行く。「あなたは(ハスキー犬になったりして)いったい何者ですか?」時折話をしながらも、私は私で自分のペースで付かず離れず。トレイルに入って単調なロードから解放されたことで、一時は朦朧としていた意識も幾分はっきりしてきた。また、ロードで疲れていた足の裏も、トレイルだと体重が分散されるので楽になる。
4:15 佐々並エイド(64km)着。今年はお豆腐がないんですって。ガッカリ。その代わりに、あたたかぁいコーヒーが嬉しすぎる。この深夜と早朝のはざまに山の中を練り歩く、という我々の奇行に、優しく手を差し伸べてくれた。饅頭とあたたかぁいお茶もいただいてエイドを出た。ほっこり&シャッキリ。
空がだんだん白んできた。水を張った田んぼが鏡のようになり、空と山が映り込んでいる。何とも幻想的。朝になった安心感と美しい景色にしばし心が和んだところで、萩王還の一番の難所である一升谷へ。コースはキツイけれど、朝の空気は清々しい。途中の私設エイドでは、あたたかぁいお茶を出してくれている。塩が入っているのか? 普通のお茶とは一味違う。はぁ。じっくり味わいながら飲み干し、お礼を言った。それ、明木エイドまでもう少し。気が付くと、もう少しで6:00。そろそろ35km・70kmの仲間たちもスタートだ。みんな、「がんばれ。えいえいおー!」と心の中で呟いた。
6:13 明木エイド(74km)着。すっかり日は昇った。椅子に座って、お饅頭とあたたかぁいお茶をいただく。今回、あたたかぁい飲み物を各エイドで摂っているのが、すこぶる良いような気がする。サクッと休憩すると回復する。
ハスキー犬と女性ランナーとも再び合流。
「次のチェックポイントの浜崎緑地公園には8:30までに着いていた方が良いですよ。後々、時間的にキツくなってくるから」
と昨年も140km走っている女性ランナーからアドバイス。なるほど。先を急ごう。このあたりから、関門時間が気になりだした。まだ午前中だのに変な感じ(ーー;) 明木エイドから浜崎緑地公園までは、この萩王還での山越え含めてあと13km。8:30まで約2時間。何とかなりそうな気がする。いや、何とかしよう。
山を越え、萩市内に入った。日差しが強い。さっきまでお茶を持つ手が寒さに震えていたのに、今は額に汗を浮かべている。玉江駅を右折し、常盤橋を渡ると日本海が見えてきた。250km(A)ランナーに「ココの海、綺麗だよね! 何年か前走った時さ、自治会長が掃除しているからゴミ1つ落ちていないんですよ! って捕まっちゃってさ。こっち急いでるのに参ったよ~(笑)」と話し掛けられたのだけれど、250km(A)ランナーは凄過ぎて、ダライ・ラマにでも遭遇した気分。触れちゃいけないし、目も合わせちゃいけないような気さえする(笑)。
両膝に手をついて信号待ちしていると、後ろから来た青いウェアのランナーと肩越しに目が合った。疲れた表情。同じ140km(B)を走るランナーだ。きっと私も同じ表情をしている。
「キツいですね! 時間的にも微妙ですし」と。
やっぱりそうですよねぇ。信号が青に変わり走り出す。キツいと言いながらも、なかなか良いペースで走って行く青いウェアのランナーに付いて行く。
【CP3】
8:12 浜崎緑地公園(87km)着。何とか目標タイム(8:30)に間に合った。先を急ぐことに。チェックポイントを出てから程なくして、折り返してくるランナーの中に、250km(A)を走っている仲間たちに遭遇! 元気をもらえた。追いつくぞー! とペースを上げて、前にいた青ウェアランナーに道を譲ってもらった。
「脚ありますねぇ!?」
と褒められたのも束の間、200m位しか気持ちが持たず、歩いていると
「あれ? もうおしまいですか?」
むむ、青ウェアランナーに抜かれた。歩いたり走ったり。左手に見えるリゾート感たっぷりの海はキラキラして綺麗だけれど、この後、笠山入口からつばきの館までが長ぇの長くねぇのって!!? ぐねぐねと続く登り坂。大分登ったところで『つばきの館まで1.5km』の看板。まだ、あるの!? と声に出して進む。しばらくして、また看板が見えてきたので着いたか、と思ったところ『つばきの館まで1km』の案内、どんだけっ!?
【CP4】
9:35 虎ヶ崎・つばきの館(96km)着。やっとの思いで食事にありつく。ココのエイドはカレーライスが有名。食堂のおばちゃんに、
「カレーで良い? うどんもあるけれど??」
と聞かれたので、間髪入れずに、うどんでお願いします! と答えた。良かった、ちょっとカレー食べる自信がなかったから。地図と関門時間を確認したら、もはやギリギリ。うどんをズバっと食べて、すぐに出発。休憩時間は正味5分。
つばきの館からの折り返しは、トレイルの遊歩道。めっきり周りのランナーが減ってきている。お散歩していたおじぃちゃんに応援してもらい、ランニングしているおにぃさんに「がんばれ、あとフルマラソン1本!」と応援された。止めてあげて?(笑)
ポツポツ見かけるランナーの背中を追いかけて、次のチェックポイントを目指す。遅くても良い。確実に走って行く。すると、道の向かい側をつばきの館目がけて歩くハスキー犬おじさんを発見。ハスキー! ファイト―!!
「おー? 頑張ってね!」
ハスキー犬おじさんを見たのはこれが最後だった。
暑いな。熱中症にならないように気を付けないと。水分は持参していたけれど、冷たぁい物が飲みたくなったので、自販機でお茶を購入。ぐびぐび飲む。生き返るわぁ。普段気付かない、こういう小さなことに幸せを感じられる。
【CP5】
11:03 金照苑(104.2km)着。ルート上、やや奥まったところにあったが、前のランナーの頭が塀越しにかろうじて見えたので、迷わずに辿り着くことができた。すぐに1km先にある次のチェックポイント(陶芸の村公園)へ向かう。
【CP6】
11:19 陶芸の村公園(105.1km)着。これで全てのCPを周り切った。70km(C)は、瑠璃光寺をスタートしてココが折り返し地点になるので、今までになく賑やかだ。時間があまりない。ドロップバックをピックアップする。芝生に座って荷物整理。ヘッデン・予備のヘッデン・ジャケット(ゴアテックス)を下ろす。サングラスを取出して装着し、ソフトフラスクにOS1を詰め、甘酒ゼリーを摂っていると、突然肩を叩かれた!?
ぎゃーーーー!!!
振り向くと、70km(C)を走る仲間たち。
「こっちがびっくりした(^o^;)」
11:40 休憩&仕度が出来たのでスタート。ここからあと35kmだ。フラットなところは走って、登りに差し掛かって歩き出す。登り切ったところで、いよいよ復路の王還道だ。暑くて熱中症になりそうなので、たとえ登りでも木陰のある山道の方が良いか。小鳥のさえずりが心地よく響き、木漏れ日は美しい。往路にはなかった光溢れる景色に包まれる。
13:19 明木エイド(115km)着。ロードに出てしばらく走るとエイドに着いた。復路は距離感が掴める。給水してエイドを出た。
往路で一升谷が1番の難所と言ったけれど、本当にキツいのは復路の一升谷。そう、往路で下って来た長ぁ~い山道を、復路では登り返さないといけない。とてもじゃないけれど走れない。頑張って歩くもののペースは上がらない。ココでこんなに時間を掛けても大丈夫だろうか….不安になりつつも、塩入お茶を出してくれた私設エイドでビールをいただく(笑)。一口だけね。何がツラいって、登りで真っ直ぐ立てないので腰が痛くて。
そこから一登りして一旦ロードに出る。相変わらず、登り。気持ちが切れないように集中した。そのうちに下り始めたので走り出した。走れるところは走ろう。ペースを上げる。かなり上げる。ロードから再びトレイルに入った。ココまで100km以上走ってきて、まだこんなに走れるんだ!? と自分でも驚くくらい、さらにペースを上げて飛ぶように走った。息が上がる。ただでさえ熱中症気味だったのに、内臓に負荷を掛けて、うすら気持ち悪くなる。ペースダウン。ロードを歩く。
15:25 佐々並エイド(126km)着。早々に後にした。なぜなら、次のエイドは夏木場キャンプ場で17:00関門。16:30迄に着かないと、その後、時間的に厳しくなってくる。分かっちゃいるけど、ゆるい登り坂。たしか4km続くんだったな。走ったり歩いたり。
そうこうしていると、淡々と走る2人に追い抜かれてしまった。この2人に付いて行かなきゃ!! そう思って走った。まだなのぉ!? と心の中で弱音を吐きながらも、いつか着く! 必ず着く! 時間に間に合わせる!! と気持ちを強く持って、登り切った。
16:30 夏木原キャンプ場(133km)着。粘って走り切り、何とか目標タイム迄に辿り着いた。やはり、最後まで諦めちゃいけないんだ。ここから7km。
「キロ10で行けば間に合う!!」
エイドのスタッフの方が教えてくれた。ゴールが見えてきたような気がした。下り基調になるとはいえ、まだ山の登りが残っている。気は抜けない。転ばない様に、走れるところは走ってゴールを目指す。下りに入ると、にわかに人が増えてきた。250km(A)・140km(B)・70km(C)のランナーたちが入り乱れる。
王還道を抜けてロードに出た。残り4km。脚は十分残っている。後は下るだけ。ペースを上げながら無心で走り続ける。残り、2km、1km、500m、最後のカーブを曲がると、沿道には応援してくれる人がずらっと並んでいる。まるで花道のよう。
「おかえり!!」「おー、元気だな⁉︎」
一人一人とハイタッチしながらゴールへ向かう。
23時間32分41秒。
完踏。走り切ったぞ。仲間に支えられながらの人生最長距離。自分の身体と対話しながら、自分自身に向き合いながら走ったこの時間。貴重な経験だった
■山口100萩往還マラニック大会/http://www.hagi-o-kan.com/
■Report/Miho kANAYA