桁違いのスピードで進む〝最先端〞の町〜群馬県神流町の魅力とは？-後編-

４人の黒澤の存在と支持されるワケ
実行委員会形式の神流町のレースを実質取り仕切っているのは町役場の中で〝なんでもやる課〞と呼ばれる産業建設課。その産業建設課の担当者が過去8回の大会で4人も変わっている（４人の名前が全員「黒澤」という珍事付きで）。
行政は人事異動が頻繁に行われ、その異動によって大会の質が大きく変わることは珍しくない。熱意のある方が担当になる場合はいいが、必ずしもそうとは限らず、状況が大きく後退することもある。
では、神流町は４人も担当者が変わっているにもかかわらず、どうやって大会の質を維持できているのだろうか？　産業建設課の現担当者・黒澤祐樹さんに聞いた。
「メーカーさんや業者の方からは『また黒澤なの？』と笑い話のように突っ込まれるんですが、最初に謝っておきますと、特にマニュアルがなく、作らなきゃって思いは代々の担当者全員あるんですよ！　でも、〝なんでもやる課〞ってレース翌日はもう違うことやっていたりで….言い訳です（苦笑）」

大会の質を維持する秘訣はあるのだろうか？
「要因はいくつかあるかなと思います。１つは、過去の大会で担当者のアシスタント的にがっつり関わっているので、全くの初めてではないということですね。自分が担当者に任命されれば、そういった経験と自分にとっては第１回大会なんだという気持ちで取り組んでいるからかもしれません。でも、一番は『町民の熱意』です。それが多くの方に支持されている理由だと思います」（黒澤さん）
どうしたって山域の深いところまで足を運ばなければならないトレイルランニングでは、アイドルのコンサートのような演出や、高級料理を求めて走りにいくわけではない。いや、むしろ、そういった世俗なものとは真逆なもの、豊かな自然であったり、皮膚感覚な人間味であったり、テレビでもネットでも味わえないそこに行かないと触れることが出来ないものを求めて走りに行く。きっと黒澤さんが言う『町民の熱意』が、ファン作りに大きく貢献しているのだろう。

“最先端の町”のこれから
神流町は埼玉県秩父市と接する群馬県の南西部に位置する人口2000人程度の山合いの小さな町だ。田畑や人工林の放置により山自体の荒廃を招き、山の保水機能が損なわれ、渇水や鉄砲水などが起こりやすくなるなど、山域の環境保全に大きな問題を抱えていたことが、大会作りのきっかけになったわけだが、コース上からは、秩父連山をはじめとした絶景が広がり、集落に降りてきては温かいおもてなしを一身に浴び、そしてランナーを痛めつけるようなハードなアップダウンが連続する。トレイルランニングに求められる様々な要素を表現できたことが『神流マウンテンラン＆ウォーク』の魅力だろう。

「過疎と高齢化のスピードは今も変わりません。なのでね、冒頭に言ったように今も〝最先端〞の町なんです（笑）。例えば、第一回大会で65歳だった人は、今年で73歳になるわけですから、気持ちはあっても、以前のように身体が動かない人も出てきていて、これは大会にとっても大きな課題です。高齢化の進度とトレイルランニングは関係ないんだけど、厳しい言い方をすると、神流町が抱える問題として、スポーツが社会課題を解決する美しい話にはなかなか難しいかなと、率直に思います。でもね、何もしないでいるわけにはいきません。もちろん、町の知名度アップに貢献したり、町民の『意識改革』という大きな力を得られるきっかけになりましたし、年に一回の大会を楽しみにしている人が多いのも事実ですから、長く続けていきたいですよ」（細谷さん）
桁違いのスピードで進む〝最先端〞の町が、トレイルランニング大会の〝最先端〞を作り上げたその取り組みは、同様の悩みを持つ多くの自治体が手本にしたい内容に満ちている。
実際に視察に訪れる自治体は数多くあり、2009年11月15日に開かれた第１回神流マウンテンラン＆ウォークが、ランネットの投票でぶっちぎりの１位を獲得して、平成24年度過疎地域自立活性化優良事例として「総務大臣賞」を受賞するに至る。

トレイルランニング以外でのアピールポイント
最後に黒澤さんに聞いた。トレイルランニング以外で、神流町のアピールポイントはありますか？
「トレラン以外で、ですか？　そうですね、恐竜ですかね。日本で初めて恐竜の足跡が発見された町でして、それを機に恐竜センターを開設しました。展示物は多彩で、恐竜時代へタイムスリップしたかの様な恐竜たちの驚きの生態を知ることが出来たり、大人が見ても十分知的好奇心を刺激する内容ですよ。化石発掘体験は子供にも人気です。あとは滝です。神流七滝と言って、町内に７つの滝があります。せせらぎの音、渓谷の風、盛夏の涼み、燃える紅葉、冬景色の白など、四季を通じて楽しめます。清流遊びをして、バンガローに宿泊して、BBQ！　そんな過ごし方も出来ますので、是非ご家族や仲間と遊びにきて欲しいですね」

恐竜センター：http://www.dino-nakasato.org
神流七滝：http://town.kanna.gunma.jp/kanko/?page_id=89

（文／山田洋）