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【BOOK】「鏑木毅 マインドセット 50歳ゼロからの世界挑戦」の一部を特別公開

「鏑木毅 マインドセット 50歳ゼロからの世界挑戦」
これはプロトレイルランナーの成功物語ではない。
「人生の陰なる部分」にあえてフォーカス。

「トレイルランナー鏑木毅」と聞くと、ハセツネ(日本山岳耐久レース)の勝利をはじめ、2009年のウェスタンステイツでの2位や日本人初のUTMB3位表彰台獲得など、輝かしい記録ばかりが思い浮かびます。しかしその裏側には、数えきれないほどの挫折が積み重なり、その偉業を達成する糧となっています。
本書は華やかな舞台で活躍するトップランナーの成功物語を描いたものではありません。鏑木選手の苦悩と挫折に満ちた「人生の陰なる部分」にあえてスポットライトを当てて、どんな境地に至りそこから這い上がってきたのか、最前線に挑むプロ時代には語られることがなかった真実を本人が隠すことなく吐露した内容となっています。
最も鏑木選手が伝えたかったのは、50歳で再びUTMBに挑むNEVERプロジェクトを経て、ようやく体得したマインドセットによって人生が、心がどう変わったのかということ。プロアスリートという立場やスポーツに限らず、いつでも誰にとっても大切な心の整え方を鏑木選手は自らの50年の人生をモデルに解説しています。50歳までの生き方、50歳からの生き方が変わるきっかけになる1冊です。

RUN+TRAIL 編集長 鈴木充

 

 

「鏑木毅 マインドセット 50歳ゼロからの世界挑戦」

本編を特別公開

 

[はじめに]
マインドセットが自分を、人生を変えてくれた

30代後半から現役プロアスリートを続ける上での限界を感じ始め、40代は衰えゆく身体と常に格闘してきました。
2017年11月に、50歳で再びトレイルランニングの世界最高峰レース、UTMBにチャレンジするNEVERプロジェクトを発表した後も、その戦いは続きました。急激に落ちていく体力、動かなくなっていく身体に消沈し、嫌気がさし、どうしてこんな勝ち目がない戦いに挑んでしまったのかと思った時もありました。そんな身体と向き合う日々の中で気がついたのは、自分が超えなければいけない壁はさらに高いものだったということです。
私がもがき苦しんでいたのは、単に加齢との戦いに敗れそうだからというだけでなく、過去の自分をなかなか捨て去ることができなかったからなのです。
2009年、私はUTMBで3位になることができ、人生が激変しました。過去、日本人が誰も成し得なかった結果であり、努力を尽くし、己の人生すべてをささげて臨んだという自負もあったので、トークイベントや講演を依頼された時には、必ずと言っていいほどその輝かしい実績を何かと引き合いに出していました。しかしある時、ふと疑問に思ったのです。私はいつも過去のことばかりを話しているな、と。私が何者かを説明する上でも、言葉に説得力を持たせるためにも、過去の栄光は最も分かりやすい勲章ですが、ある時を境にして自分はそれにすがっているのだと気づいたのです。
精一杯のことをやったとしても、その世界3位を超えることができなければ、世間の視線は冷たいものです。プロであるからそれは仕方ないのかもしれませんが、いつしか「お荷物」のような扱いをされ始めたと感じると、余計に過去の栄光や成功体験にすがりたくなってしまうのが人間というものです。これまで己の生き方が正しかったことを周囲や自分自身に納得させたい気持ちは誰にでもあるでしょう。人は常に、安定した居場所を欲しがります。40代になっても、50代になっても、自分の居場所を守りたいのです。
私も同じです。自分の居場所を守るために、いつからか世界3位の勲章にすがって生きていたのです。NEVERプロジェクトを始めた発端は、そんな過去を拠りどころにする自分と決別したい気持ちがあったからです。
しかし、それがなかなか簡単なことではなかったのです。今振り返れば、うまく心をコントロールして、過去を捨てられた時もありましたが、知らず知らずのうちに過去の自分、過去の栄光は私の心を乱したのです。よし、捨てようと思って今日から違う自分、違う心で生きていくことは、常人には到底できません。私自身、きっぱりとあの世界3位の結果を捨て去るまでに10年かかってしまったのです。


総距離160㎞。日本アルプスを10回も登り下りするような厳しいコースを一昼夜不眠不休で走り続けるトレイルランニングの究極の世界、100マイルレース。そこで活躍できるのは生身の人間とは思えないような持久力、どんな困難でも乗り越えられる鋼のようなメンタル、どんな窮地に立たされた時にも打開できる総合的な人間力の高さなど、常人離れした能力を兼ね備えた人と思われるでしょう。しかし、そうとは限りません。私が長年の経験を通して辿り着いた答え、それは、100マイルレースで最も大切なのは「心の在り方」。心が整っていなければ苦しい状況を乗り越えることは到底できません。それは100マイルレースに限らず、どんな困難な状況に陥った時でも同じです。そのネガティブなことをどう受けとめるか。心の在り方ひとつで、まったく違う受けとめ方になってきます。才能があるわけではない私が、常人離れしたレベルで世界と戦えたのは、無意識のうちにマインドセットがうまくできていたからだと今は感じています。
加齢と戦いながら、世界3位になってから現役選手として50歳まで歩んだ10年の中で、私は常に心のバージョンを変えることにも取り組んできました。人は悪い流れは自分以外の他力でしか変えることができないと思う傾向にあります。しかし、自分自身の心のスイッチを切り替えることで人生を、運命をも変えることができるのです。
心のコントロールは難しく、私はさまざまな葛藤を経て、長い時間をかけて、ようやく今の自分や考え方に辿り着くことができました。その道は100マイルレースのように険しいものだったと言えます。しかし、ようやくできるようになった私が思うのは、それは特別な人間にしかできない特殊な能力ではないということです。本当に根本から心の中身を変えるのは簡単ではありませんが、投げ出さずに続けることで誰もができることだと思います。
過去の成功体験に頼りたくなるのは誰もが同じですが、その時の年齢や状況に合わせてマインドセットができるかどうかで、その後の人生が変わってくるはずです。なぜなら私自身、自分の人生や考え方をリセットすることで、より幸せな気持ちになれ、人生の第2ステージに進めたと今は感じているからです。
40歳で世界3位になってから、50歳でUTMBにチャレンジした私の10年の軌跡を追いかけてもらうと、必死にマインドセットを試みる私の姿が浮かび上がってきます。一見、遠回りしているように見えるかもしれませんが、それを自分の姿に重ねていただくことで、皆さんの心の中に静かに、そして力強く何かが湧き上がってくれば幸いです。

 

鏑木毅 マインドセット 50歳ゼロからの世界挑戦
■¥1,540
■単行本
■鏑木 毅(著)
■RUN+TRAIL(編集)
■出版社/三栄書房 (2019/11/15)
■発売日/2019/11/15

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