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スコット・ジュレクが語るアバラチアントレイル世界記録秘話

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「BROOKS Presents 【スコット・ジュレク】 トークショー」

 

アメリカのジョージア州からメイン州にかけての14州にまたがる3,522km、累計標高差約157kmのアパラチアントレイルは、コンチネンタル・ディヴァイド・トレイル、パシフィック・クレスト・トレイルと並ぶ、アメリカにおける三大ロングトレイルの一つです。

アパラチアントレイルの最速踏破記録は、2011年にジェニファー・ファー・デイビスによって作られた世界記録46日11時間20分。伝説のトレイルランナー、ウルトラランナーとして知られるスコット・ジュレク(USA)は、2015年7月にこの記録に挑み、46日8時間7分で走破し、新たな世界新記録を樹立しました。

1015年10月に来日したスコットは、東京でトークショーを開催。記録樹立にいたるまでのエピソードを話してくれました。

--アメリカ人にとってアバラチアントレイルは、どんな存在ですか?

アメリカ最古のトレイルといわれています。3500kmといえば、日本で言えば北海道から沖縄まで続いているということです。アメリカ国民の約半分がこのトレイルから3~4時間以内に住んでいるので、都会からも近いトレイルといえますね。

--なぜこの記録に挑戦しようと思ったのですか?

FKT(fastest known time、最速踏破記録)というものは、サポートで携わったことはあったのですが、自分自身の挑戦は初めてした。しかし、今までのトレイルランニングやウルトラランニングで20年間戦ってきキャリアを踏まえると、その次のチャレンジとしては最もふさわしいと思いました。アパラチアントレイルは、今までに50kmくらいしか走ったことがなかったし、妻のジェニーもこの地域にはあまり行ったことがなかったので、挑戦を決めました。ジェニーには「長い旅に行こう!」と説明しました。車は自転車ではアクセスできない場所も多く、日本のトレイルのようにアップダウンが激しいのが特徴ですね。

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(左)地図を見ながら解説するスコット
(右)チャレンジを告白されたときのエピソードを語るジェニー

--スルーハイカーが早くて4ヶ月かかる道程を1ヶ月半で制覇するための作戦は?

このチャレンジにはシリアスに取り組みながらも素晴らしい景色を楽しみたいというのが大前提としてありました。スルーハイキングでは、ほとんどの人が北から南へのルートをとります。北のほうが過酷なので、最初につらいところをクリアすることになります。しかし、私は南から北へという逆のルートを選びました。

--毎日どのくらい移動してどこに泊まっていたのですか?

大体、一日に80kmくらい、多い日で100km程走りました。通常はバンの中で寝ていました。もちろん、テントに泊まることもありましたよ。46日のうち4日だけホテルに泊まりました(笑)。シャワーを浴びたのは1週間に1回くらいでしたね。

--どんな装備だったのですか?

バックパックはトレイルランニング用の小型のもの。リザーバーは1Lのフィルター付きを持っていました。ずっと走り続けることはできないので、パワーウォーキングする際のポールも持っていきました。トレイルランニングと、バックパッキングの中間的な規模だと思います。トレイル上で寝る必要があるときは、スタッフにスリーピングバッグを持って走ってもらったりもしました。シューズは8足使用しました。うち6足はブルックスの「ピュアグリット4」。2足は同じくブルックスの「カスケディア10」です。疲れているときは足をプロテクトする能力とクッション性が高い「カスケディア10」を履いていました。足が常に濡れている状態でした。シャツやパンツも耐久性が問われましたね。

--ブルックスのトレイルランニング用のシューズの開発に携わっているそうですが、今回の経験はシューズ開発にいかされますか?

より軽く、より薄く、より履き心地がよく、よりトラクションが強く、よりプロテクション能力が高いシューズを作るかという問題に対して、最適なテスト環境であったと思います。

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(左)今回のチャレンジで使用した装備
(右)BROOKS  ピュアグリット4

--起床時間と就寝時間は?

6時間寝られればいいほうでした。平均で4、5時間くらいかな。途中3日間ほど、思うように走れない日があったので、その遅れを取り戻すために、後半の追い込みの時は1、2時間しか寝られませんでした。夜の1時、2時くらいで走る日もありましたが、そんなときは昼間とは違う音が聞こえてきたり、動物達に会えたりしました。

--食事はどんなものをとっていましたか?

毎日、食事で6000~7000kcal、それに加えてエナジーフードで3000~4000kcal摂取しいていました。朝起きて、例えばココナッツミルク入りのラテを飲んで、エナジーフードを食べて走り始めます。ランチにはジェニーがスムージーやトーストなどを持ってきてくれます。それには、脂肪分が多いココナッツオイルやココナッツミルクが入っていました。ランチはアボカドサンドなんかが多かったかな。最初は止まって20分くらい食べる時間があったのですが、後半は歩きながら食べていました。よく差し入れしてもらったのはビーガンピザとアボカド巻きですね。オリーブオイルをかけたパスタやココナッツミルク入りのタイカレーなんかも差し入れしてもらいました。

--それだけ食べていても、どんどん痩せていったみたいですが

「よくそんなにたくさん食べられるね」と言われましたが、食べることに関しては問題ありませんでした。食べることができなかったのは1日だけでしたね。しかし、走る時間が長くて、睡眠時間もたりなかったので8~9kg痩せました。想定内ですけれどね。

--記録更新ができそうだなと思ったのはいつ頃ですか?

時には完走も不可能なのではないかと思ったこともありました。最後の日の朝になっても、記録更新できるかどうかは自信がなかったです。本当に確信を得たのは最後の登り、ラスト8km付近で8時間程時間が残っている時ですね。

--ゴールした7月12日はジェニーの誕生日でした。狙っていたのですか?

本当はもう2、3日早く終わるはずだったんですけどね。でも、最後は一緒にバースデーハイクをしました。

--チャレンジが終わって一番最初にしたことはなんですか?

自宅のカウチに寝転がってなにもしないこと。なにもしなくていい時間を楽しみにしていました。また、この旅はジェニーと一緒だったのですが、実際に一緒にいる時間は、ほんのわずかだったので、ジェニーとの時間を楽しみたいと思っていました。

--今回の記録達成に関して、一番重要だった点はどんなところですが?

トレーニングや装備、事前の計画、サポートクルーとの連携、など、重要なことはたくさんあると思いますが、やはり一番はメンタルではないでしょうか。思い通りに行かないことがあっても、それを何とか解決して成功に導くというメンタルの強さが必要だったと思います。

--次に挑んだらもっと短縮できますか?
怪我をしなかったり、もっと睡眠時間を取れていたりすれば、43日~44日でフィニッシュできるかもしれませんね。あとはGPSを捨てたり、途中でサインをしなかったりとか。でも、みんなの応援があって、がんばれたのも事実ですから。

--FKTはこれから流行ると思いますか?

私の記録達成で注目度は増していると思います。FKTはハイキングとランニングの融合したようなカルチャーだと思います。ランナーだけではなく、ハイカーでも記録を狙えるので、様々な能力を持ったアスリートが挑戦できるのではないかと思いますね。そういう意味ではこれから、いろいろなトレイルでいろいろな人がチャレンジをしていくのではないでしょうか。

--このチャレンジは、いいサポートチームが必要不可欠ですね。

サポートクルーは不可欠です。とくにジェニーは指揮官として、また、生活の様々な面のサポートとして本当に大変だったと思います。常時帯同してくれたスタッフとは別に、数日間、長い人では2週間手伝いに来てくれたりと、様々な人に支えられて記録達成ができたと思います。

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アパラチアントレイルのいたるところに寄せられたメッセージ


jurek12スコット・ジュレク Scott Jurek
2015年7月12日。アメリカの14州にまたがる3,522kmのアパラチアントレイル(長距離自然歩道)を46日8時間7分で走破し、世界新記録を樹立。世界的に著名なウルトラマラソン・ランナーであり、ヴィーガン(完全菜食主義者)であることでも知られている。伝統あるウエスタンステーツ・エンデュランスラン7連覇、灼熱のデスヴァレーを走るバッドウォーター・ウルトラマラソンの2度の優勝、24時間走のアメリカ記録樹立(266,677km)など、これまでに数々の伝説を作り続けてきた。これまでに、ニューヨークタイムズ、USAトゥデイ、ウォールストリート・ジャーナルなど、数多くのメディアで紹介され、彼のライフスタイルに世界から注目が集まっている。著書に『EAT & RUN』(邦訳はNHK出版)がある。

■取材協力/BROOKS http://brooksrunning.co.jp

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